空想お散歩紀行 空の闇と地上の光と鮮血女子高生
漆黒のカーテンが降り、星々の小さなライトが空を照らし出す。太陽が眠る時間になっても人々は眠らない。
街には人が生み出した光が溢れ、人は夜を削り取った空間で生きている。
だが、人は夜そのものへの畏れと憧れを無くすことはない。
「この後どうする~?」
「ん~、どうしよっか」
街を行く人々。家路に付いている者やまだ仕事中の者。そんな流れの隅っこで、壁によりかかり何とは無しにその流れを眺めている女の子が二人。
共に制服を着ており、一目で女子高生なのだと分かる。
時計はすでに頂点を過ぎている。そんな深夜なのに時折見かける、街をパトロールしている警官はその女子高生に対して何も言わない。
「カラオケでも行く?」
「この前行ったばっかだしなー」
それもそのはず、彼女たちの背中には小さな蝙蝠のような羽があった。
二人はヴァンパイアの女子高生なのだ。
ここケルト市の夜では当たり前の光景。彼女たちは夜から始まる学校に行って、今は放課後というわけだ。
今、彼女たちの周りにいる人々も、その多くは夜行系の種族たちである。
「ねえ、今飲んでるの何年もの?」
金髪の方のヴァンパイア女子高生が、隣の黒髪の友人に尋ねた。黒髪の娘は、その手に透明な容器に入ったドリンクを飲んでいる。先程街の出店で買った物だ。中は鮮やかな赤い色をした液体だった。
「ん。人間の男45年にオレンジフレーバーのやつ」
「え?何でそんなん飲んでんの?人間だったら女18が一番おいしいし、流行ってんじゃん」
「私、そういう流行りに乗るのって嫌なんだよね」
「いるいる、こういうやつ」
友人に言われた言葉を気にすることなく、彼女は容器の中を飲み続けている。
ブラッド・ジュース。生き物の血を素材に作られる、ヴァンパイアにとって一番身近な飲み物である。もちろん血は合法的に提供されたものだ。
「でもさあ、一度でいいから高級な血飲んでみたいよね」
「天使とか幻獣とかね。どんな味がするんだろ」
話には聞いたことがあるが、想像することすらできない味に、二人はただ空を見上げることしかできなかった。
「それ飲めるくらいのお金稼げるのっていつになるんだろうね?」
「あんま気にしてもしょうがなくない?そんなこと考えて、今を無駄にしたら意味ないっしょ。せっかくの女子高生ライフ。華の100代後半を楽しまなきゃ」
「それもそうか」
ジュースを飲み終わると、それを近くのゴミ箱に投げ入れ、
「決めた。今日はアクセでも見に行こう。お金無いから買えないけど」
「じゃあどこ行く?ルシファとベルゼが新作出したってネットで見たけど行ってみる?」
「いや、あえてクロス系のやつのとこ行こ」
「クロスって、十字架?あんたほんとヴァンパイアとして変な道行くよね。何?今反抗期?」
「ほらほらさっさと行くよ。ずっとこんなとこいたら、鼻息荒くした狼男がナンパしに来てウザイよ」
空を見ると、今夜は見事な満月だ。
「そだね。それに日が昇って肌が焼けるのはヤバいし、その前には帰りたいしね」
人工の光尽きない街の中へ、二人は歩いていく。その背中の羽は小さく揺れていた。
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