空想お散歩紀行 出立前の静けさ
武士たるもの、常に備えていなければならない。
いついつに戦が起こるなど、誰も分からない。明日かもしれない、いや今日の夕暮れ時からもしれない、いやあと10秒後かもしれない。
とにかく、未来は誰にも分からない。
だが予感というものはあるもので、そろそろかなと感じることはある。
拙者の今の状態がまさにそれだ。
だからいつでも出立できるよう準備を整えるのだ。
身を清め、刀を磨き、鎧を点検する。
いざという時立つことができない武士など、何の役にも立たない。
目に見えるものの準備を整えたら、次は目に見えないところに気をかける。
つまり心である。
いつ、何があっても揺らがない心。氷が張る寸前の湖のように、感情を静かに引き締める。
今この瞬間に全てが凝縮されているかのごとく集中し、瞑想をしていると、廊下から足音が近づいてくる。
それはとても小さな音だが、間隔が少々早い。足音の主の気持ちがはやっているのが分かる。
ついに来たか、確信が心を走る。
脇に置いてある刀の鞘にそっと手を置く。
それとほぼ同時に障子が開いた。
足音の主である、私の小姓が顔を出した。
「ついに時が来たか・・・」
小姓が何かを言う前に全てを察し、立ち上がろうとした時、
「あ、いえ、一度はそろそろ発とうかとお思いになったようですが、やはりまだ暖かいと、冬将軍様は再び寝所に戻られました」
それを言うと、小姓は静かに障子を閉じ去っていった。
「・・・そうか」
この季節、急に寒くなったり、かと思ったらまた暑くなったりと気の流れが読みにくい。
冬将軍様の出立はまだであったか。
拙者もまだまだ修行が足りないようだ。
今一度静かに準備を整えて待つとしよう。
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