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空想お散歩紀行 恨み子ちゃんの日常

「う~~~~ん」
椅子に座ったままで腕を高く上に伸ばす。
長時間同じ姿勢で固まった肩と首がほぐれていくのを心地よく感じながら、
「そろそろ終わりかな」
窓の外の景色を見ながら、終業時間が近づいていることに何とも言えない安堵感が体に広がる。
だが、目の前に視線を戻すと同時に現実にも連れ戻される。
今私の目の前にあるPC。その画面に映し出されている詳しい意味は分からない単語や数字の羅列。
「これいつになったら完成するんだろ・・・」
私が今やっているのは、プログラミングの仕事。
「こんなことするためにここに来たわけじゃなかったんだけどなー」
人生というのは、いつもなかなか思い通りにはいかない、などと思わず感慨にふけってしまいそうになるが、次の瞬間自分に自分でツッコむ。
「いや、私の人生はもう終わってたじゃん」
そう、私の人生は既に3年前一度終わっている。
現世に大きな恨みを持って私の人生は終わった。
だから化けて出て恨みを晴らそうと思っていたのだが・・・
こちらの世界も、生前考えていたものとは大きく違っていた。
恨みを持っているやつの前に現れて、うらめしや~の時代はとっくの昔に終わっていたらしい。
今やこっちの世界も、グローバルでベネフィットになっている。
私が今携わっている仕事も、呪いのプログラムを作る仕事。
呪いももはやビジネスの一つとしか考えられていない。生贄だとか呪いの儀式だとか、そんなものは埃をかぶった話なのだ。
今私の目の前のPCで作られている呪いのプログラムも、私個人の恨みではなく、どこかの誰かのための呪い。
いかに効率的で、いかに革新的で、いかに世界中の需要に素早く応えられるかが、この業界に求められていることだ。
死んだ直後の私は、まだ自分の恨みを晴らすことに熱く燃えていた。
この企業に入ったのも、呪いのスキルを身につけて、いつか自分の目的をより良い形で叶えるためにいいと思ったからだ。
でも、仕事の忙しさに、いつしか自分の目標よりも日々の業務をこなすことのほうを優先してしまっている自分に、軽い嫌悪感を抱くこともあるが、そんなことをしても仕事が終わるわけではない。
「さて、明日も忙しいから早く帰るか・・・」
窓の外では空が白くなり始めている。日の出が近いのだ。
「今はまだ残業までしなくていいのが、せめてもの救いか」
このまままっすぐ帰って家でのんびりするか、それともどこかで一杯やってから帰るか。
今の私にとっては、自分の恨みを晴らすことよりも切実な悩みだった。

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