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空想お散歩紀行 No Treat ?

夜の闇の中を走り抜ける影があった。
それは一つではなく、3つだったが、あたかも一つの体のようにぴったりと同じ動きをしていた。
今夜、この街では同じように動く影がいくつもあった。
それは黒猫の群れだった。三匹一組で街の中を走り回る。
彼らはとある魔女の使い魔として、今重大な任務を負っている最中だ。
その任務とは、とあるものの探索。
今日から十日後、街はハロウィンと呼ばれる祭事が開かれる。それはこの世界と冥界との間の門が開かれる日。その日冥界から数多の魂がこちらの世界にやってくる。
放っておけば、彼らはこちらの世界のことなどお構いなしに振る舞い始めるだろう。
それを鎮めるために彼らに捧げる物が、特製のお菓子だった。
それを与えることで魂たちは満足し、また夜明けと共に冥界へと帰っていく。
ところが今回、その特製お菓子を作るための材料が盗まれてしまったのだ。
このままでは、冥界の魂たちを抑えることができない。
そうなったら、やつらが何をするか全く見当もつかない。
もしかしたら、こちらの世界の人たちを驚かせる程度のイタズラで終わるかもしれないが、もしかしたら、世界そのものが破滅してしまうかもしれない。
なので大至急盗まれたお菓子の材料を探しているのだ。
昼はカラスたちが、夜は猫たちが、空から地上から、些細な物も見逃さないぞと目を光らせている。
だが、一向に手がかりがない。そもそも犯人の目星も、お菓子の材料を盗んでどうしたいのかという動機も未だに分かっていない。
何か犯人なりの思想があるのか、復讐か、それとも単なる愉快犯か。
任務が進展しないまま、時間だけが過ぎていく。
使い魔たちは、ネズミやカカシにも協力を要請して事に当たることも考えていた。
とにかく今は走り続けるしかない。
黒猫たちの尻尾に付いた小さなカボチャのランタンが不安げに、夜の闇を少しだけ照らしていた。

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