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マークの大冒険 現代日本編

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大学卒業後、研究者のポストに付けず、うだつの上がらない日々を送っていたマーク。フリーのカメラマンとして何とか食い繋ぐも、生活はカツカツで、研究に勤しむ時間が取れず、気力さえも奪わ…
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記事一覧

マークの大冒険 現代日本編 | 神殺しの聖槍

マークの大冒険 現代日本編 | 神殺しの聖槍

マークの部屋で、マークと夜が話していた。ヴィクトリア朝風のクラシックな部屋の造りで、古書が大量に詰まった巨大な本棚とアンティークの机が特に目を見張る。机の上にはシェイクスピアの『真夏の夜の夢』とワーグナーの『ニーベルングの指環』の挿絵本が飾られており、その傍らには聖母マリアの銀製彫刻が置かれている。陽光が注ぐ出窓には香料が置かれており、ウッド系の優しい香りが部屋を包んでいた。マークと夜は向かい合う

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マークの大冒険 現代日本編 | 遣わされし者、第15使徒

マークの大冒険 現代日本編 | 遣わされし者、第15使徒

「アイ......オーン......」

夜はそう呟くと地面に倒れ込み、彼女が持っていた果実は足元に落ちて転がった。だが、その果実を拾い上げる者がいた。果実を拾い上げた者は、倒れた夜の背後から急に姿を現した。男は白色の亜麻布製ローブを着ており、フードを深く被っていた。顔には影が落ち、よく見えないが、彼はマークの方をぼんやりと見つめていた。

「久しぶりだね、マーク」

「アイオーン.....!?」

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マークの大冒険 現代日本編 | 全てを超えし者

マークの大冒険 現代日本編 | 全てを超えし者

10年前、エジプトの荒野にて_______。

エジプトの荒野に突如出現した巨大な岩柱。その上で、マークがアイオーンに問いかけていた。

「お前の目的は、何なんだ?」

「目的?それを聞いて何になる?」

「それが、ボクの生きる意味だからだ。だから教えて欲しい。自分の人生に納得するために、ボクはこの世界の真実が知りたい」

「面白い。いいだろう。教えてやろう。救済には、世界線の統合が必要だ」

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マークの大冒険 現代日本編 終章 リトル・サンクチュアリ | ゴールデン・アフタヌーン、放課後はキミのいる古書店で

マークの大冒険 現代日本編 終章 リトル・サンクチュアリ | ゴールデン・アフタヌーン、放課後はキミのいる古書店で

アイオーンの胸にロンギヌスの槍が突き刺さっていた。

「10年越しにやっと決着がついたな」

マークは胸にロンギヌスの槍が刺さったアイオーンを見て言った。

「目覚めの時が来る。キミは元の器に戻る。果実の代償は、夢から目覚めること。オリエンタル・ウィンドでの目覚め。指輪が持つ記憶の忘却は夢から覚めないための救済であって代償ではない。指輪は見たい幻想をいつまでも見させてくれる器」

「どういうことだ

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マークの大冒険 現代日本編 | 過去を引き摺りし者

マークの大冒険 現代日本編 | 過去を引き摺りし者

「賭けてみても良いのかもしれない.....」

マークはこもった声色で呟いた。

「はっきりしねえな」

ホルスがぼやいた。

「分かった。行こう。あの日のローマに」

「そう来なくっちゃ!」

夜は微笑を浮かべた。

「それで、キミのお父さんは、どんな人なんだい?」

マークが夜に訊ねた。

「気になる?ママの相手が知りたいんでしょ?どんな人と結婚したのか」

「いや、別に......。ただ、瞳

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マークの大冒険 現代日本編 | 後悔に溺れし者

マークの大冒険 現代日本編 | 後悔に溺れし者

10年前、ウェスタの間にて_______。

「本当は黒髪だったんだね。そっか、ローマだもんね」

「そうね。ほんの遊び心だったけど、ブロンドもなかなか似合っていたでしょ?」

「うん。誰よりも綺麗だった」

「そう」

「......ボクはキミが好きだった。初めてキミを見た時から。書架と向き合っていたその横顔がこちらを向いて、目が合った瞬間、既にボクの心は奪われていた。だから、キミがいるあの場所

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キミがいた場所 | あの古書店での思い出

キミがいた場所 | あの古書店での思い出

英国挿絵画家の世界については、自分が当時足繁く通っていた古書店に勤める英国出身の書店員からの影響が大きい。彼女は長く透き通ったブロンドの髪に、吸い込まれるような澄んだブルーの瞳をした、絵に描いたような美人だった。年齢は分からないが、さほど歳は離れていない気がした。

本棚と睨めっこし、アーサー・ラッカムの書籍を探していた時、彼女が「ラッカムのテイストが好きなら、ヒース・ロビンソンもいかが?あなたな

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思い出になった人 | 祖父とケンタッキー

思い出になった人 | 祖父とケンタッキー

コロナの真っ只中に祖父が死んだ。ケンタッキーが大好きな人だった。戦争で幼少期は芋のツルしか食べられず、大人になったら、たらふく肉が食べたいというのが彼の夢だった。戦争が終わり、彼はその夢を叶えることができたが、食べ過ぎて身体に悪いからという理由で、晩年は祖母からケンタッキー禁止令が出た。

それでも、内緒で買って行き、二人で隠れて食べるというのをよくやった。祖父は死に際にも病院の床の上でケンタッキ

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放課後オリエント | 考古学への目覚め

放課後オリエント | 考古学への目覚め

大学の頃、ちょうど必修と必修の間の空きコマに一般教養科目として考古学の授業があった。時間が合ったという理由だけで何となく取り、楽単だったらいいなという、やる気のない学生特有の淡い期待も抱いていた。授業開始が近づくと少し早めに赴いて最後列を確保した。これもやる気のない学生の習性である。

やる気のない学生は、やる気はないがこういうことにかけてはマメである。長い90分を少しでも快適に過ごすには場所取り

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あの日のボクは | 赤点・受験日記

あの日のボクは | 赤点・受験日記

高校で成績が落ちて無気力になった時期があり、全く勉強をしなくなった。その結果、高2の頃に赤点を幾つも取り、次に赤点を取ったら留年というところまでいった。それから間もなくして学校では三者面談が行われ、担任から父にそのことが伝えられた。ボクは人生これで終わったと思った。死にたくなった。

めちゃくちゃに怒られる。勘当されるかもしれない。だが、父はそれを聞いても何も言わず、表情ひとつ変えなかった。教室か

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キミがいた場所 | あの古書店での後日談

キミがいた場所 | あの古書店での後日談

彼女がいなくなった後も、ボクはあの古書店に通い続けていた。ある時、店主が彼女のことについて話始めた。ボクはそれを流すように聞く振りをしていたが、内心ではとても気になっていた。

「どうしてあの時、何も言わなかったんだ?」

古書店のカウンターで手に取った本を眺めていると、向かい側で腰掛ける店主が唐突に呟いた。

「言わなかったって?」

「そりゃ、言わなくても分かるだろ、お前さん。何かしらアクショ

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ビアトリクス ・ポターとピーターラビットに会いに行く

ビアトリクス ・ポターとピーターラビットに会いに行く

ビアトリク・ポターとピーターラビットに会いに行く
『出版120周年 ピーターラビット展』世田谷美術館

今回は、世田谷美術館で現在開催されている『出版120周年 ピーターラビット展』の展示の中で特に印象に残った作品をピックアップして紹介していく。今年2022年3月26日から開始された本展は、2022年6月19日まで開催されている。

最寄りの用賀駅から世田谷美術館は、徒歩で15〜20分ほどのところ

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マークの大冒険 現代日本編 | 秘密を暴きし者

マークの大冒険 現代日本編 | 秘密を暴きし者

「それでは、今日はここまで。次回は貨幣を用いた考古学現場の年代推定についてだ。フォーラムにレジュメを上げておくので、各自、次回の授業までに目を通しておくように。それから再来週は、研究出張で休講予定となっている。詳細は追って連絡するので、そちらもフォーラムで確認しておくように」

教壇に立つマークは、聴講する学生たちに言った。講義の終わりを告げるチャイムが鳴り響き、学生たちは講堂の最前席に出席カード

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マークの大冒険 現代日本編 | 秘密を語りし者

マークの大冒険 現代日本編 | 秘密を語りし者

「......キミはどうして、ボクが果実を持っていると思ったんだい?」

「それは_____。全ての答えは、文献の中に既にある。教授の著作の言葉ですよ」

「それじゃあ、キミはボクがタイムトラベラーか何かで、いろんな時代を行き来してたって言うのかい?」

「はい。その通りです」

「そんな馬鹿げた話があるかい?」

「でも、それが事実です。そうした結果が現実としてある。エジプトのサッカラで起こった

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