#英語がすき
江戸っ子AIパート2(アイザック・アシモフ『銀河帝国の興亡 1』)
巨匠アイザック・アシモフによる宇宙SFの古典より。
物語冒頭、主人公ガアルが惑星トランターに降り立つ場面である。おそらくネイティブなら何も引っかからない、何でもない文章だろう。
私が引っかかたのは2点だ。
まずは minor。荷物が minor とはどういう意味なのか。小さいのか、少ないのか。
次に taken apart and put together とは何が起きているのか。荷物が何
匠の技(J.R.R.トールキン『ホビットの冒険』)
ファンタジーの名作より。目的地であるドラゴンの住む山をみはるかす場所にたどり着いた場面。
問題は Lonely Mountain をどう訳すかだ。「孤独山」だと味気ないし、「寂寥山」とかだと中華ファンタジーみたいだ。
「おさみし山」とか「ぼっち山」では語感がもう一つだ。他には思いつかないな……
ネットで答え合わせをしてみたら「はなれ山」(瀬田貞二訳)だった。
負けた…(勝つ気だったのか?)
ネイティブ、ヤバい。(J. R. R. トールキン『ホビットの冒険』)
ファンタジーの名作より。魔法使いガンダルフと、森に住む大男 Beorn が出会った場面である。
いや〜すばらしい。ここで heard of "him" を使うネイティブの言語感覚がすばらしい。
私ならたぶん the name か your name にしただろう。「そんな名前は聞いたことがないな」か「お前さんの名前なぞ知らんな」にしただろう。
しけしネイティブはここで「そいつのことは聞いたこ
下半身は上半身の乗り物なのか【フレーズ】as fast as one's legs would carry one(J・R・R・トールキン『ホビットの冒険』)
ファンタジーの名作より。主人公ビルボが一つの指輪を盗んで、ゴラムとオークの群れから逃がれようとしている場面。
この his legs carry him (彼の足が彼を運ぶ)という言い回し、実に英語らしいフレーズだ(注1)。
英文を読んでいると、今でも時々 they が指すものを勘違いしていて、意味が取れないことがある。よく読み直してみると、それが語り手の両手だったり両目だったりする。
日本
ホモ・サピエンスは死よりも孤独を恐れる
フェイスブックで「ニュースフィード」というフィーチャーが初めて投入され、プライバシーを侵害されたと考えた人々が憤慨し、物議を醸す。炎上の中、やがてザッカーバーグは自分の考えが間違っていなかったことを確信する。
20年ほど昔、携帯を持たない上司がいて、「つかまりたくないから」と言っていたのを思い出した。当時でもめずらしかったと思うが、それでも日常生活にそれほど支障はなかったのだ。いま携帯を持たない
プライドは重力に支配されている(Jane Austen / Pride and Prejudice )
感じの悪い紳士ダーシーに対するベネット家の読書家メアリーの評である。Pride と Vanity の違いを論じている。
すべて「自尊心」と「虚栄心」などで統一して訳すべきなのかもしれないが、日本語ではなんとなくうるさく感じるので、全部変えてみた。それはそれで分かりにくいか。
こうして並べてみると、自尊心と気位とプライドは「高さ」で程度を表現できるが、虚栄心と飾り気と見栄はできないようだ。
虚
英語になった中国語【動詞】kowtow (David Kirkpatrick / The Facebook Effect )
フェイスブック黎明期の逸話より、投資家が見た創始者マーク・ザッカーバーグの印象。
kowtow って英語っぽくない単語だなあと思ったら案の定、中国語由来だった。
漢字で書くと叩頭 kou4 touで、ぬかづくこと。
本来、最高の敬意をはらう行為だが、英語では「追従する」「へりくだる」という意味になっている。
似た言葉に bowwow がある。犬の鳴き声を表すオノマトペとして定着しているが、
測り知れない恐怖【形容詞】unplumbed(H. P. ラヴクラフト『闇をさまようもの』)
異教徒の教会で召喚される怪異と、それに魅入られた作家の狂気を描いた短編より。
とかく抽象的で分かりにくい文章ばかり書く作家だが、それを読むのがまた癖になりもする。
今回気になったのは unplumbed 。plumb は「鉛錘」「(測鉛で)〈海などの〉深さを測る」の意。unplumbed は「測深されていない」「深さの計り知れない」という意味だ。
日本だと「千尋の谷」などと大きな数字を使って
名状しがたいものを記述するということ【形容詞】inconceivable, indescribable, unmentionable, unclean, uncanny, unwelcome, abnormal, and detestable(H. P. ラヴクラフト『アウトサイダー』)
物心ついたころからひとり城に幽閉されていた「私」が、ある時城の塔を登り、初めて外の世界に出てきた時に見出した恐怖についての描写である。
この、まるで類語辞典を調べながら書いたかのような形容詞の羅列、これは明らかに、著者の頭の中にあるイメージを言語化しようとしているのではない。
語彙力を駆使して、名状しがたいものを読者それぞれの心のなかに現出せしめようとしているのだ。
ここに文芸だけの持つ力と