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測り知れない恐怖【形容詞】unplumbed(H. P. ラヴクラフト『闇をさまようもの』)
Before his eyes a kaleidoscopic range of phantasmal images played, all of them dissolving at intervals into the picture of a vast, unplumbed abyss of night wherein whirled suns and worlds of an even profounder blackness. (281)
彼の目の前には万華鏡のように幻想的な光景が広がり、やがてそのすべては次々と広大での底しれない夜の奈落へと溶け込んで行った。そこには太陽と、夜よりも深い暗黒の世界とが渦巻いていた。
異教徒の教会で召喚される怪異と、それに魅入られた作家の狂気を描いた短編より。
とかく抽象的で分かりにくい文章ばかり書く作家だが、それを読むのがまた癖になりもする。
今回気になったのは unplumbed 。plumb は「鉛錘」「(測鉛で)〈海などの〉深さを測る」の意。unplumbed は「測深されていない」「深さの計り知れない」という意味だ。
日本だと「千尋の谷」などと大きな数字を使ってべらぼうな深さを表現したりするが、測鉛というプラクティカルな技術で計測できない深さというのは、より具体的でイメージしやすく、底知れなさが恐怖に結びつきやすい。
海が今よりはるかに危険で謎に満ちた世界だったころに、実感とともに生まれた言葉なのだろうか。
初めて見た、と思ったが、この本では7回も使われていた。被修飾語は gulfs(割れ目), voids(空虚), abyss,(深淵) warrens(トンネル), abysses, depths(深み)。(残りのひとつは名詞的用法)
確かにラヴクラフトの書く小説には、地の底、海の底から湧き出てくる恐怖のイメージがある。
その「測り知れない恐怖」は、これまでもこれからも、読者を魅了し続ける。