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匠の技(J.R.R.トールキン『ホビットの冒険』)

The Lonely Mountain! Bilbo had come far and through many adventures to see it, and now he did not like the look of it in the least. (p.189)

Lonely Mountain!  ビルボはこの山を目指してはるか遠いところから、いくつもの困難を乗りこえてやってきたのだけど、いざたどりついてみると、それは目を背けたくなるような代物だった。

J. R. R. Tolkien "The Hobbit, or There and Back Again" (1937)

ファンタジーの名作より。目的地であるドラゴンの住む山をみはるかす場所にたどり着いた場面。

問題は Lonely Mountain をどう訳すかだ。「孤独山こどくやま」だと味気ないし、「寂寥山せきりょうざん」とかだと中華ファンタジーみたいだ。

「おさみし山」とか「ぼっち山」では語感がもう一つだ。他には思いつかないな……

ネットで答え合わせをしてみたら「はなれ山」(瀬田貞二訳)だった。

負けた…(勝つ気だったのか?)

これ以上の訳語はないだろう。

それそのものの性質をではなく、孤立しているという状況を「はなれ」という和語で表しているのだ。

その手があったかー。

でもきっと瀬田さんは、三日三晩呻吟して、とかではなくて、ぶどう酒でもなめながら、ひょひょいっと訳したに違いない。

膨大な知識と研ぎ澄まされた感性をひらめかせながら。

勝てん…(だがら勝つ気だったのか?)


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