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「存在するだけで赤字」だって
小学生から社会人の今まで、ずっと見えないエスカレーターに乗り続けているようだ。
小学4年生から中学受験のため、電車で進学塾へ通った。平日は夕方から授業を受けて21時に帰宅。
毎週日曜日はその週の復習テストを受け、翌日からはテストの成績順に座席が変更される。
春・夏・冬休みは朝から晩まで講習を受ける。
無事、中高一貫校に合格しても、高校進学と共にまた大学受験に向けた予備校通いが始まった。
「年越しの瞬間も勉強して、自信に変えろ」
講師のことば通り、紅白もカウントダウン特番も見ずに勉強した。もちろん年越し以外も学校・予備校・自宅と場所を変えつつ休みなく勉強した。
無事、大学に合格しても、2年生からは就職活動に向けての準備が始まった。
「学内で一本、学外で二本の柱を持つといい」
先輩のことば通り、学内はゼミ活動、学外はビジネスコンテストや企業インターンシップへ参加して自信と経験を積み重ね、面接では熱量たっぷりに伝えた。
無事、希望の企業に就職しても、入社2ヶ月目には必達のスローガンと共に売上目標が与えられた。
「新入社員は自分のデスクの家賃分すら売上を上げられていない、赤字だ」
存在するだけで赤字と言われながら、都会の高層ビルのデスクでひたすら電話をかけ続ける。
その分、売上目標さえ達成すれば十分な報酬が支払われた。ほしいものは全部買える。モルディブや韓国など好きなところへ旅行にも行ける。
けれど、次第に仕事自体への興味が薄れる中、報酬だけを目的に続けてもこころは冷えていった。
毎日決まった時間に始業して終業して、まるで囚人じゃないか。
「目標を倒せたのは・・・」
「皆で一丸となって契約を獲りました」
会議では勇ましいことばと共に、いかにして売上を上げたかの成功体験が語られる。
きっと戦国時代の武将たちも同じように手柄を報告していたのだろう。
「敵陣を倒せたのは・・・」
「皆で一丸となって敵将の首を獲りに行った」
令和時代になっても、この人たちは同じように戦っているのか。
目標を追い、報告し、評価を受ける日々は続く。
「こんなに稼がなくてもいいんじゃないか」
「でも、お金はいくらあっても困らないし」
「そこまで働かなくてもいいんじゃないか」
「でも、今と同じ好条件の転職先はないし」
辞める理由を挙げる度に、でも、でも・・・と引き止める理由が自分の中に次々と湧き上がる。
組織に属さず、定期収入がない状態も怖い。
興味はないけれど、イヤで仕方ない末期的な状態でもないからずるずると続けられてしまう。
だが、振り返ってみると同じだけ時間があっても同じ助言を受けても、行動に移さない人もいた。途中でリタイアした人もいた。
ならばこの透明なエスカレーターは無理に乗せられたものでも自然と乗れたものでもなく、時間や助言を機会に変えて、行動と努力の末に乗ることができたものではないか。
だからこそ、簡単には捨て降りられないのだが、もう本当に不要だと心底見切りがついたら、その時に降りよう。
組織に属し、目標を追う。
ずっと続けていて、降りられない。
状況は変わらないが、これまでを振り返り葛藤も飲み込んだ上で進むと、エスカレーターではなく自らの足で上ってきた階段のように感じられた。
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