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じぶん作詩/短歌 のようなもの

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まるいきつねいろに焼きあがった土曜の朝を、ナイフでざくざくと切り込んで、そしたら呑み込まれたのはあなたの前にいる私のほう。部屋に散らかった齧りかけのいくつもの昨晩を、たまに思い立って、本音と嘘の段ボールに放り込んで明日の不燃ごみにと思うけれど、きれいに片付いたためしなんてそれはなくて。ああ、また山溜まりになったものたちに薄くラップをかけて、部屋の端に置いておくことしかできないでいる。置いているのか

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まがいものの朝

まがいものの朝

起きて 夢を見ていたと悟って

ふやけた意味の意味を

裸足の裏でなぞろうとつめたい

6AMにフローリング 着地

ただしい輪郭とは すなわち朝の窓辺

あてどころに尋ねあたらぬ意味 まがい者が

光のもとでは均く声をならべ

昨日を名乗り わたしを騙って

こんこんと 

今日も

今日に

折り重なっていく

また同じ夢を見ていた

惑星よ恋

惑星よ恋

早起きできれば清々しくて
できぬとも二度寝が幸せなのと
タンポポみたいに笑う君はもう
土から育ちがちがうみたいだ

また今朝はどんな夢を見たのかい

数学なら僕らはねじれの関係で
隣にいても君の寝息は絵文字のよう

もう片っぽの靴下は見つかったかい

君はいつでもたのしいいきもので
自慢しようにも見出しが多すぎるさ

おかげで僕は寝不足すらうれしいとか
君は君はと
君が主語の生活もわるくないかもな

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くるくる貝

くるくる貝

相変わらず奇抜な柄が似合ってしまうきみの

ひろい肩やむねに付いてる貝や貝や貝や貝の

そのうちの一つに過ぎないとしても少なくとも

薄まったレモネードが回ってるいまはあたしの海だ

だからくるくる回って永遠に減らなくてこの時間が

続いてほしいのに続いてほしくない、なんで?

分かってるんだよそうして陽だまりみたいに笑う

ちゃん付けしてくれるさり気なく靴をほめてくれる

優しさを持て余して手も

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万華夜のほどろ

万華夜のほどろ

水彩画が淡くぼやけるみたいに、あたしの脚に一晩中絡んでいた温もりは夢のなかの出来事だった。

それはそれは美しくて、あたたかくて、甘くて、にがくて。そして存在が即ちすでに、嘘だった。

あたしは幻を見ていた。

ほてった紅で口づけしてオレンジワインの芳ばしさを深く深く海のいろに染めた明け方。

煌びやかな電飾に浮かび上がったのは、昨晩という名の喫茶店かバーであったかもしれない。

夜が溶ければ灯り

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月舟の途

月舟の途

本当に思っていると言うのはほんとうは

本当と思っていたいだけなのかしらと

己すら誠と信ぜられない酔いの言の葉

口にのぼれば刹那の煌めき宵に溶けゆく

紅い幻想に落つる伏目の奥は在りし月か

或いはとうに違えた月の許であるか

影刻々と移ろう雑踏に別つ背の途を

遠のく貴女を 

未 来

これだけの掌を犠牲にして

得られると説かれる未来が

季節 何巡めぐった先にも 

先にも

見えなくたって

薄ら曇り空のした

今にも底の抜けそうな大通りを

慎重に慎重に

歩いていかなきゃならんのでしょう

止まない小雨をバケツに溜めて

ほらと見せる空想に頭傾けても

靴下は湿り気を帯びて

見えない雷が遠くで鳴って

わたしは

洗いたてのグラスを逆さにしたら

玄関口で待ちかまえる鬱屈の雫が

今日は落ちてこない 

何故

蒸発して漂っているのか

自分で呑み下してしまったのか

呑み込んだ涙も心のなかに咲う木漏れ日も、しかるべき時を待って言葉に芽吹いてゆけ。みなもを揺らしてゆけ。泡沫の夢を掬うは言葉のたおやかさ、人知れぬ瞬きを捉えるは言葉の機微、光の届かぬ海底を照らすは言葉のしなやかさ、なのだから。

◇冬眠

まどろんひるさがり

あまいクリイムに誘われて

春まであと少しだけ


***


◇君日和

あんまいねこれ

スプーンに映る君と

君がくれたさくらんぼの赤さ

今日はぼくのほじょりんがとれた日だから
ゆずるのも愉しくて思わずふり返る春の小道

素数になりきれないおとなたち

素数になりきれないおとなたち

おとなは緊張してないフリも、してるフリも上手いのね。

もうあの頃みたいに、試験開始の合図にドキドキしながら素数をかぞえたりはしない。
わたしは大人だから。

ゆうべの寝返りを朝のコーヒーで流し込めば、
きょうも電車が走って株が動きます。

でもどこへ?

わからない。

割りきれない気持ちというのが、あるでしょ。

それを空にうかべてみるんです。
あの頃みたいに、心をからっぽにして。

今朝よりも黄ばんだビニル傘携えて

飯の匂いには犬並みの嗅覚持つ君の

そういうとこが好きと味見す湯気越しに

鍋のなかの人参とジャガイモ、お前たちはまだ何にでもなれるよだなんて。わたし、あなた、東京の片隅で今日も箸つついて笑いあおうじゃないの。