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聞こえなくとも聞こえる世界『みんなが手話で話した島』

 もしも、聞こえないことが「障害」ではなく、ただの「個性」だったら?

 もしも、みんなが手話で話し、聴覚障害のある人もない人も、同じように学び、働き、恋をし、笑い合える社会があったら?

 そんな奇跡のような話が、実際に存在したのです。

 舞台は、アメリカの小さな島、マーサズ・ヴィンヤード島。

 20世紀初頭まで、この島では住民の多くが聴覚障害を持っていましたが、誰もそれを「障害」とは感じていませんでした。

 なぜなら、島民全員が手話を共通言語として使っていたからです。

 聞こえない人も、聞こえる人も、同じように手話で語り合い、笑い合い、生活を送っていました。

 そこには、障害の有無を超えた、真の共生社会がありました。

『みんなが手話で話した島』は、そんな奇跡のような島の物語を、文化人類学者のノーラ・エレン・グロース氏が丹念な調査と島民へのインタビューを通じて描き出したノンフィクション作品です。


島のユニークな特徴

 アメリカのマサチューセッツ州にあるマーサズ・ヴィンヤード島は、20世紀初頭まで、住民の多くが聴覚障害を持つという特徴がありました。これは、17世紀に島に移住してきた人々の中に、聴覚障害の遺伝子を持つ人がいたためです。隔離された島の環境で、この遺伝子は代々受け継がれ、聴覚障害者の割合が異常に高くなりました。

 しかし、この島では、聴覚障害は決して「障害」とは見なされませんでした。なぜなら、島民全員が手話を共通言語として使用していたからです。聴覚障害のある人もない人も、手話を使って自由にコミュニケーションをとり、社会生活を営んでいました。

手話による共生社会

 島では、手話は単なるコミュニケーションツールではなく、文化やアイデンティティを共有する重要な役割を果たしていました。子供たちは、聴覚障害の有無に関わらず、自然に手話を習得し、学校や家庭、職場など、あらゆる場所で手話を使っていました。

 聴覚障害のある人は、社会から孤立することなく、教育を受け、仕事に就き、結婚し、子供を育て、政治に参加していました。つまり、聴覚障害は、彼らが社会で活躍する上で何の障害にもならなかったのです。

島の生活と文化

 手話は、島民の生活に深く根付いていました。教会では手話で説教が行われ、学校では手話で授業が行われました。商店での買い物、隣人との会話、恋人同士のささやきも、すべて手話で行われていました。

 島には、独自の「マーサズ・ヴィンヤード手話」も発展しました。これは、アメリカ手話とは異なる独自の文法や語彙を持つ手話で、島の文化や歴史を反映したものでした。

島の変化と手話の衰退

 20世紀に入ると、島は本土との交流が盛んになり、島民は英語を使う機会が増えました。聴覚障害を持つ子供たちは、本土のろう学校に通うようになり、アメリカ手話を学ぶようになりました。

 その結果、マーサズ・ヴィンヤード手話は徐々に使われなくなり、島民の共通言語としての役割を終えました。聴覚障害者も、手話だけでなく、口話や補聴器を使ってコミュニケーションをとるようになったといいます。

本書が伝えるメッセージ

『みんなが手話で話した島』は、聴覚障害と共生の歴史を伝えるだけでなく、私たちに多くの問いを投げかけます。

  • 「障害」とは何か? マーサズ・ヴィンヤード島では、聴覚障害は「障害」ではなく、単なる「違い」として受け入れられた。この事実は、私たちが「障害」と捉えているものが、社会的な環境によって大きく変わることを示唆する

  • 「共生社会」とは何か? 島民は、手話を通じて互いを理解し、支え合うことで、聴覚障害者も聴者も共に生きやすい社会を築いた。これは、多様性を尊重し、誰もが排除されない社会の実現に向けたモデルケースと言える

  • コミュニケーションの重要性 手話は、単なるコミュニケーションツールではなく、文化やアイデンティティを共有する手段。言葉の壁を超えて、人と人が心を通わせる可能性を示す

日本社会へのヒントも満載

 日本でも、障害者差別解消法の施行など、共生社会の実現に向けた取り組みが進んでいます。マーサズ・ヴィンヤード島の事例は、多様性を尊重し、誰もが自分らしく生きられる社会を築くことの重要性を改めて教えてくれます。

 また、手話は、聴覚障害者にとっての母語であり、豊かな文化を持っています。本書を通じて、手話への理解を深め、手話を使う人々との交流を促進することが期待されます。

 さらに、コミュニケーションの本質についても考えさせられます。
 
 インターネットやスマートフォンの普及により、コミュニケーションの手段が多様化していますが、相手の気持ちを理解し、共感するためには、言葉だけでなく、表情や身振りなど、非言語的なコミュニケーションも重要です。

 マーサズ・ヴィンヤード島の事例は、コミュニケーションの原点に立ち返るきっかけを与えてくれるでしょう。

感想など

 驚きと感動、そして深い感銘を受けました。

 まず、聴覚障害が「障害」と捉えられず、島民全員が手話を使って自然にコミュニケーションをとっていたという事実に驚きました。現代社会では、障害はとかく「克服すべきもの」「支援が必要なもの」と捉えられがちですが、この島では、聴覚障害は単なる「違い」であり、個性として受け入れられていたのです。

 そして、聴覚障害のある人もない人も、互いに尊重し合い、協力し合って生活していたという事実に感動しました。手話という共通言語を通じて、島民は深い絆で結ばれ、誰もが社会の一員として活躍していました。これは、まさに私たちが目指すべき「共生社会」の姿ではないでしょうか?

 さらに、この本では「障害」とは何か、「共生社会」とは何かを深く考えさせられました。障害は、決して個人の問題ではなく、社会のあり方によって大きく左右されるものだと気づかされました。そして、多様性を尊重し、誰もが自分らしく生きられる社会を築くことの重要性を改めて認識しました。

 異なる文化や価値観を持つ人々が共に生きるためには、互いを理解し、尊重し合うことが不可欠。手話のような共通言語を持つことは、そのための大きな一歩となるでしょう!

 また、コミュニケーションの本質についても考えさせられました。
 言葉だけでなく、表情や身振りなど、非言語的なコミュニケーションも大切にすることで、より深く相手を理解し、心を通わせることができるのではないでしょうか?

 この島の歴史は、今日の私たちが多様性と共生をどのように考えるべきかを示しています。

『みんなが手話で話した島』は、障害や共生、コミュニケーションについて、多くの示唆を与えてくれる本です。ぜひ多くの人に読んでいただきたい一冊です。

 こちら単行本は2000円ですが、Kindleは594円と爆安ドンキ価格なので、Kindleで読んでしまうのもありですね。

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