【38】 私は生涯太らない。それはもう決まったこと
乳がんになったとき、主治医からさらっと「太らないでね」と言われました。
私は「はい」と神妙にうなずきながらも、
(……それは中年女性にとっての、『無理難題ベスト3』に入るヤツなのでは……)
と内心で困惑しました。
しかし、主治医がおっしゃる通りに、私の場合は太ってはいけないのです。
女性ホルモン由来で乳がんが発症している場合、カラダの脂肪を増やしてしまうと、その脂肪の中に、より多くの女性ホルモンが蓄積され、再発率を上げるためです。
確かに年々、昔の体重をキープすることが難しくなっていたころの、乳がん発覚でした。
(※太ったから、太っているから、すべての方が乳がんになるわけでは、決してありません)
手術や抗がん剤を経て、体重は5キロほど減り、学生時代の体形に戻りましたが、その後は食欲も戻り、まただんだんとV字回復し始めた体重は、闘病前に戻りつつありました。
ダイエットとリバウンドは、仲良しセットのような関係ですが、脳科学的に言うと、「太ってはいけない。炭水化物を食べてはいけない。がまん、がまん」と思い続けることで、逆にそのことにとらわれ、意志の力を保つのが難しくなり、結果食べてしまい自己嫌悪、という負のスパイラルに陥ってしまいがちだとか。
そして食べるときに「これを食べたら、太ってしまう」と思いながら食べると、脳は素直なのでその通りに働いてしまうそうです。
……と複数の脳科学の本から導き出した答えでも、脳みそのミソちゃんは懐疑的です。
「本当かなぁ……? ウソくさい話。だって、同じカロリーのものを食べても、太ると思って食べたら太るってわけ? カラダに吸収する量が変わるってわけ? そんなわけないじゃん、あんた最近どうかしてるよ」
ミソちゃんが、案の定ぼやいています。物事の、ほとんどのことを疑ってかかる私は、ミソちゃんのその態度は想定内です……が!
「ミソちゃん! よーく聞いて! 食べたくなったら我慢せずに食べ、食べている間は『美味しいな、幸せだな』と満足して食べる。せっかく楽しい食事を、制限や我慢で覆い尽くしたら、ストレスがたまる。するとある時、急にドカ食いしたくなる。それじゃあ本末転倒でしょう。だから、適量、美味しく食べる。ミソちゃんには、それができる! 大丈夫!」
私はミソちゃんに強く言い聞かせました。
「でたーーー。無理やりの、前向き! 大丈夫なんかじゃないよ!」
数か月前、私は回転寿司屋で、糖質摂取の恐怖のあまりにシャリが食べられなくなっています(詳しくは【9】をお読みください⤵)
「ミソちゃん、大好きなお寿司も、ピザやパスタもラーメンも、焼肉も甘いモノも、全部食べてよし!」
「えーホントにー?? ミソはブドウ糖がないと困るから、炭水化物は嬉しいけどさ。でも、ガンに良くないんじゃないの? それに後でダイエットがきつくなるよー。大丈夫なの?」
ミソちゃんがぼやきます。
私は主張します。
「イヤ、私、もう一生、ダイエットはしないから」
「は???」
「要するに、ダイエットしたいなら、ダイエットしないことが大事なのよ!」
私は禅問答のような回答を導き出しました。
「『ダイエットをして痩せる⇒そして後にリバウンドする』は一つでセットなの。このふたつは永久にループする、永久不滅の仲良しさんなの。つまり、リバウンドするのは、ダイエットしたからなの。だから、ダイエットはしないで生活しましょ」
「……まったく、意味がわからない……。ダイエットしなきゃ、太るでしょ。脂肪が増えて乳がんが再発したら困るじゃん……だからダイエットは必須でしょ……なんかさあ、最近、あんたとしゃべってると疲れるよ……いろいろ意味不明なこと言ってこないでよ」
ミソちゃんが深いため息をつきました。
「歯磨きみたいなものよ」
「は???」
「歯磨きって、大人は習慣化してるから、何も考えずに磨くじゃない。多少面倒だなって思っても、歯磨きするのが辛い、きついって思わないじゃない。それよりは『歯を磨くとスッキリする』とわかっているし、やらないと気持ち悪くなるじゃない。だからダイエットも習慣化するのよ」
「結局、ダイエットするんかい!!」
「ううん、ダイエットは、しないの。習慣として、"美味しく食事する”という生活を続けるだけなの」
「だーかーらー、人はそうやって美味しく食事をした結果、太るんでしょうが!!」
「大丈夫です。いつも、ミソちゃんに聴くようにするから。もっと食べたいですか? もう充分ですか?って」
「……え?? 私に、聞くの? そんなの聞かれても、私、もっと食べたいって、言い続けちゃうと思うよ。ミソは大食いだからね。食べることが大好きなんだもん。あんたも知ってるでしょ」
ミソちゃんが悲しそうな顔をしています。
「大丈夫。信じてる」
「は?? ……信じる……?? ミソのことを??」
ミソちゃんが、驚いて目を白黒させています。
「ミソちゃんは、適量を知ってるはず。野生の動物って、太ってないよね。満腹になったら食べないんだよ、彼らは」
「……知らないよ、そんなの。野生じゃないもん、ミソは。食べられる限り、食べ続けたいもん。ミソは自信がないよ」
「自信がないか、そりゃーそうだよね。これまで私がミソちゃんを信じてこなかったからね。とにかく、自信がなくてもいいよ。でもさ、ミソちゃんは、『私』、だよね。その私が、ミソちゃんを信じるって言ってるの。悪いけど、言うこと聞いてくれる?」
ここのところ、結構強気な私。
「………うーん」
「大丈夫、ミソちゃん。私だってミソちゃんに100%頼る訳じゃないよ! こんな行動を習慣化していきまーす」
「ミソちゃんの生物としての力と、私の習慣の両方で、適正体重を一生涯キープしますんで。よろしくね」
ミソちゃんも、しぶしぶ頷いてくれました。
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