澤村伊智 『予言の島』 : 「新本格ミステリ」の遺児
書評:澤村伊智『予言の島』(KADOKAWA)
気鋭のホラー作家による、初の長編ミステリ。
作中で、横溝正史、三津田信三、京極夏彦の三人に言及されるとおり、横溝的な田舎を舞台に、三津田的な民俗的怪異を扱い、それを京極的な問題意識で描いているが、最後に持ち出されるのは、最後まで言及されなかった某有名ミステリ作家などがお得意のパターンである。
作者は「新本格ミステリ」を読んで育った世代であろうし、当然、新本格ミステリに影響の大きかった先行世代の作家も読んでいる本格ミステリファンなのであろう。それゆえ本作には、それら先行作家や作品へのオマージュが込められており、なかなか凝った作品で、よく頑張った力作だとは思う。
だが、個人的に面白いかったかと言われれば、正直「まあまあ」といったところだ。
私の最大の不満は、どこにも「新しさ」がなかったところ。つまり、とても器用で達者な作家だとは思うのだが、いかんせん、この人にしか書けないという美点が、本作では見当たらなかったことだ。
やはり、本格ミステリというのは、スレていない若い頃にこそ、素直に楽しめるジャンルなのではないか。若い頃に読んだら、もっと楽しめたはずだ。
初出:2019年3月25日「Amazonレビュー」
(2021年10月15日、管理者により削除)
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