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弱おじの本棚

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2023年4月の記事一覧

あなたの苦しみを言葉にしてごらん?それを見た誰かが救われるかもしれないよ。 〜「毒をもって僕らは」を読みました〜

あなたの苦しみを言葉にしてごらん?それを見た誰かが救われるかもしれないよ。 〜「毒をもって僕らは」を読みました〜

冬野岬さんの「毒をもって僕らは」を読んだ。

本の帯に引き寄せられて本書を手に取った。

「この世界の、薄汚い、不幸せなことを私に教えてくれないか」

登場人物の女性は余命が僅かで、生きることに希望を見出せない。
主人公の少年に対して、あなたの苦しみを教えてくれと懇願する。

苦しみを言葉にすることは、辛い。
トラウマを掘り起こす作業なんて本当はしたくない。
記憶が流されてくれるのをただ息を潜めて

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「死」を意識することで「今」は輝く。 〜「余命一年、男をかう」を読みました〜

「死」を意識することで「今」は輝く。 〜「余命一年、男をかう」を読みました〜

吉川トリコさんの「余命一年、男をかう」を読んだ。

人はいつか死ぬ。
当たり前だけど、そのことを思い出させてくれた。

今、仮に余命を宣告されたら嬉しいだろうか?
「あぁ。やっと終われる。楽になれるんだ。」と、救われる気持ちになる人だってきっといるのだろう。

人生が「期間限定」であることを、人間はすぐに忘れてしまう。
期間限定だからこそ楽しもうと思えるのだし、逆に永遠に続くと思ってしまうからしん

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人生を豊かにするために、信頼という種を自分から蒔こう 〜「ラブカは静かに弓を持つ」を読みました〜

人生を豊かにするために、信頼という種を自分から蒔こう 〜「ラブカは静かに弓を持つ」を読みました〜

安壇美緒さんの「ラブカは静かに弓を持つ」を読みました。

「信頼」という言葉について考えさせられました。

嘘偽りなく人と向き合うからこそ、信頼関係が生まれます。
どちらかに隠し事ややましいことがあれば、その関係はいとも簡単に崩れてしまいます。

心から信頼できている人が、私にはどのくらいいるのでしょうか?
損得勘定抜きで付き合えている友人。
すぐに浮かべられるのはたった一人で、だけども一人でもい

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クズが僕に図太く生きる勇気をくれた。 〜「嫌いなら呼ぶなよ」を読みました。〜

クズが僕に図太く生きる勇気をくれた。 〜「嫌いなら呼ぶなよ」を読みました。〜

綿矢りささんの「嫌いなら呼ぶなよ」を読みました。

めちゃくちゃ面白いです。
文体がポップなのに、表現しているのは人間の醜さだったり弱さだったり恥ずかしさだったり、でも何だか共感してしまい、「わかるー!」って思いながらページを捲る手が止まりません。

表題作の「嫌いなら呼ぶなよ」は、不倫をした夫が嫁の友人夫婦数名からただただ問い詰められるシーンを描いたしんどい設定です。
そんなしんどいはずの設定な

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人生を豊かにするのは「ノリ」と「行動」だ。〜「藍色ちくちく 魔女の菱刺し工房」を読んで〜

人生を豊かにするのは「ノリ」と「行動」だ。〜「藍色ちくちく 魔女の菱刺し工房」を読んで〜

髙森美由紀さんの「藍色ちくちく 魔女の菱刺し工房」を読んだ。

ちなみに、私は裁縫とか手芸には全く興味がない。
では、なぜこの本を手に取ったか?
それは「ノリ」だ。

図書館でたまたま特設コーナーに本書が置いてあった。
興味がある設定ではなかったが、逆にだからこそ読んでみようと、その時なぜだか思えた。
結果として、私はその時の自分自身を褒めてあげたい。本書を読んだことで、人生に対する考え方が確実に

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バッドエンドがたまらなく心地良い。 〜「方舟」を読みました〜

バッドエンドがたまらなく心地良い。 〜「方舟」を読みました〜

夕木春央さんの「方舟」を読みました。

展開がどうなっていくか、ワクワクしてページを捲る手が止められませんでした。

途中の人が死ぬシーンの描写は非常にリアルで、読むのがしんどくなるレベルでした。
目を背けたくなるほどのイメージが生まれてしまう文章を書けるって、すごいなと思います。

ラストのエピローグが個人的には皮肉ですごく好きです。
後味の良い終わり方では決してないですが、なんだか全てがうまく

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あなたの苦しみをこの小説が肯定してくれている。 〜「土の中の子供」を読みました〜

あなたの苦しみをこの小説が肯定してくれている。 〜「土の中の子供」を読みました〜

中村文則さんの「土の中の子供」を読みました。

中村さんの小説を読むたびに思うのは、
「生きづらい人ってたくさんいるよなぁ」ってこと。

同時に、
「自分の人生って案外マシなのかもなぁ」
と思えるので、内容はダークだけど読んだ後は不思議と救われた気持ちになるのです。

苦しみに触れることで、自分の幸福度が上がってしまう。
これは決して恥じることではないと思っています。

小説で深い苦しみに触れてお

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青春時代には戻れないが、青春時代の素晴らしい感情は少しだけ思い出せる。 〜「夜のピクニック」を読みました〜

青春時代には戻れないが、青春時代の素晴らしい感情は少しだけ思い出せる。 〜「夜のピクニック」を読みました〜

恩田陸さんの「夜のピクニック」を読んだ。

とある高校の夜通し歩くイベントをテーマに書かれた小説だけど、読んでいてまるで自分がその世界に入り込んだ感覚に陥った。

歩くことが好きだ。
歩いていると色んな思考が現れたり、反対にピタッと思考が止まって、無になれる瞬間がある。

高校のイベント。
その瞬間にもう戻ることはできず、目の前にある瞬間がいかに尊いものか、その瞬間には気づくことができない。

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偶然って、必然じゃん? 〜「偶然の聖地」を読みました〜

偶然って、必然じゃん? 〜「偶然の聖地」を読みました〜

宮内悠介さんの「偶然の聖地」を読んだ。

「偶然」と「必然」について、深く考える。

人生で起こることは、全て偶然だ。
きっとそこに決定的な原因なんてなく、ただ物事が起こっていく。

ただ、私はそれさえ必然であると思えて仕方がない。
偶然が起こることって、実は神様が決めてしまっている、必然なんじゃないかって、そう思える。

つまらない考え方だろうか?
人生なんて決まっている。
そんなつまらない生き

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ラジオと読書って、ええよな。 〜「ラジオ・ガガガ」を読みました。〜

ラジオと読書って、ええよな。 〜「ラジオ・ガガガ」を読みました。〜

原田ひ香さんの「ラジオ・ガガガ」を読んだ。

私はラジオが好きだ。
そして、読書も好きだ。

両者に共通するのは、映像をイメージするというところ。
そして無数の言葉たちが脳内に流れ込んでくるところ。

ラジオを聴いていて、ふとした一言に救われることがある。

本を読んでいて、ふとした一行が心に突き刺さることもある。

ラジオが好きだ。
本も好きだ。

この小説には、ラジオと共に生活を営んでいく人た

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川底は見えないけど、川底に存在する苦しみを想像できる人間ではありたい。 〜「川のほとりに立つ者は」を読んで〜

川底は見えないけど、川底に存在する苦しみを想像できる人間ではありたい。 〜「川のほとりに立つ者は」を読んで〜

「川のほとりに立つ者は、水底に沈む石の数を知り得ない」

他人の川底に、何が転がっているかなんてわからない。

その人のために行動をしてみても、それが本当にその人のためになっているかなんて、わからない。

川底に沈む石たちに、苦しめられながら今日をどうにかやり過ごして生きている人たちがたくさんいる。

誰かのためを思って行動することは、素晴らしいことだ。
でも、その人が思い通りに動いてくれないと怒

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