見出し画像

あなたの苦しみをこの小説が肯定してくれている。 〜「土の中の子供」を読みました〜

中村文則さんの「土の中の子供」を読みました。

中村さんの小説を読むたびに思うのは、
「生きづらい人ってたくさんいるよなぁ」ってこと。

同時に、
「自分の人生って案外マシなのかもなぁ」
と思えるので、内容はダークだけど読んだ後は不思議と救われた気持ちになるのです。

苦しみに触れることで、自分の幸福度が上がってしまう。
これは決して恥じることではないと思っています。

小説で深い苦しみに触れておくと、実生活においても他者の苦しみをイメージしやすくなります。

例えば職場で何かムカつくことを誰かに言われたとしても、その背景をイメージしてストレスを軽減することができるのです。

「この上司、家で奥さんにめちゃくちゃ怒られて苦しかったんやろな〜」とか、
「この上司、昨日パチンコで負けて絶望に打ちひしがれてるんやろな〜」とか。

それが例え事実ではなくても、「苦しみの想像」を行うことで、生きることが楽になっていく気がします。

中村さんの物語、考え方に共感する部分がたくさんあります。

文章中に「日々をやり過ごす」とか「日々の連続が辛い」みたいな表現が出てきますが、めちゃくちゃわかる!と共感してしまいました。

そしてこの思考を持つのは中村さんだけではなく、小説を愛読するたくさんの人たちが抱えている苦しみだと思えると、なんだかすごく心強くなれます。
あ、私だけじゃないんだ!って。

日々をやり過ごしていけばいい。
憂鬱から逃れるために、何か没頭するものを見つけて思考を飛ばして生きていればいい。
そして気づいたら最期の瞬間を迎えている。それが理想であり、そんな理想を抱いていていいのだと、この小説が「肯定」してくれています。

暴力とか家庭環境とかクソみたいな会社とか貧富の差とか。
この世界は運ゲーでクソゲーです。

やり過ごしていけばいい。
深く考えず、とりあえず死ぬまで生きていればいい。

苦しみを抱えていてもいい。
苦しみを抱えているのはあなた一人ではない。

この小説が私たちを肯定してくれている。
だからもう少し、とりあえず。
この人生を緩やかに生き続けていこうと思うことができました。

この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?