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2018年9月の記事一覧
はじまったときには、もうすでに苦しい。
5月も終わりに近づくと、もう気が気でない。
メンフィス・ジャグバンドの
「ピーチ・イン・スプリングタイム」を聞いていたら、今年も訪れるであろう、桃の季節を思い出して苦しくなった。
とにかく桃が好きすぎるのだ。
桃の季節のはじまりを逃すまいと、
気もそぞろになる。
そうして用心深く、はじまりを予感した時にはもう、いずれ終わってしまうという、逃れようのない事実に、私の胸は、既に苦しい。
江國
カサブランカ202号室
上京してはじめて暮らしたアパートの名前は、「カサブランカ」といった。
「あなたの部屋はイングリッド・バーグマンの部屋ね。」
大家さんから鍵を手渡され、茶目っ気たっぷりにウィンクされた瞬間、胸にこみ上げてきた、あの嬉しさをふと思い出した。
これからはじまる東京での暮らしが、
急に色目きだち、すぐさま映画「カサブランカ」を借りに走ったのだ。
アパートで1人、バーグマンの美しさに魅入りながら、東京で
いつもたったひとりのために。
何をするにも、たった一人の誰かに想いを向ける。
教師だった母はよく、「私が教師を続けてこれたのは、いつもたった一人の生徒のためだった。」と話す。
「私が学校に行かなければ、あの子の居場所がなくなる。そんな子が毎年必ず一人はいるから、定年まで働けたのよ。」
尊敬する著名な教師も、
「たった一人のために伝えようと考えた授業が、結局はみんなにわかりやすい授業になる。」と言っていた。
言われてみれば、
肩を抱くように肉を焼く
何か物事を深く考えすぎてしまうきらいがある。
もっともらしい理由を探して、過去にまでさかのぼり、嘆いたり憂たりするくせに、それを論理立てることがカタルシスになっている。
いつも朗らかな友人に、上機嫌でいるコツを聞いてみたら、シンプルな答えがかえってきた。
「不機嫌な時は大抵お腹すいてるんだよ。ファンタでも飲んでおいでよ。」
炭酸でお腹もふくれて、糖分も一緒にとれるよって、底抜けに明るい笑顔