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いなくならない

「いなくならない」
2014年に、世田谷文学館で開催された茨木のり子展、入場してすぐの壁に記された、谷川俊太郎さんが茨木のり子さんに手向けた詩のタイトルだ。
その言葉のその確かさに、私は思わず、深々と平伏した。
ちょうどその会期中に、大好きな祖母が逝ったばかりだった。
誰よりも、話し相手として祖母の存在を拠り所にしていた。大事な話し相手を失い、途方に暮れていた私は、入場早々、胸をすくわれた。

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彼女は確かにもういないけれど、「いなくならない」と、彼は、高らかに堂々と
「いなくならない」と言い切ってくれた。
その偉大さに感服する。
これがもし「いなくならないと信じる」、であったら「いなくならないと願う」、であったら、別れへの恐怖を露呈したに過ぎず、私の心は言葉から遠のくばかりであっただろう。

いなくならないし、なくならない。
永遠は、今現在未来永劫続いてゆくものではなく、一瞬一瞬の中に閉じ込められた、むしろ過去のものだ。
もう逢えない人と過ごした時間、消え失せた愛情、疎遠になってしまった友情や、果たされなかった約束さえ、すべて、あの時の気持ちや言葉は本当で本物で、決してなくならない。嘘にもならない。
私にとって永遠とは、きらめく石の中にとじこめられ、光に透かしてのぞきこめば、いつでもあの時のあの感覚で触れることのできる宝石のようなものだ。

宝石箱にきらめく永遠の粒が、だんだんと増え、私を護ってくれている。

たのしかったよ。
ありがとう。
ありがとう。  

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こうして私は、この詩に救われ、祖母との別れを受け入れることができた。
それでも時々、どうしても祖母に会いたくなる。
話を聞いて欲しくて、たまらなくなる。
会わせることのできなかった息子を、抱いてもらいたくなる。
想像するのが怖いくらい、小さな息子を溺愛する姿を思い浮かべ、泣きたくなる。
おばあちゃんに会いたい。
言葉より先に涙が出てしまう。
そんな時こそ、おまじないのようにつぶやく。  

「いなくならない。」  

麻佑子  

#日記 #エッセイ

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