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インティメート・ボランティア

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親切心ではじめたボランティアが、いつの間にか自分の空虚の穴をうめるものになっていた。
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#小説

インティメート・ボランティア 完結編



インティメート・ボランティアの完結編です。全てで23回になります。

インティメート・ボランティア 1はコチラからになります。

親切心ではじめたボランティアが、いつの間にか自分の空虚の穴をうめるものになっていた。最後は、ちょっとした展開を迎えます。

最後だけ有料にさせていただきます。購読していただければ嬉しい限りです。(1770文字)

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インティメート・ボランティア 22

「短い間でしたが、お世話になりました」

深深と下げた頭を上げると、志穂はさっと沙紀の顔を盗み見た。

先ほど、上司の川崎が、志穂の寿退社の説明を同僚にした。志穂の言葉に従順に、お相手は、元テレビ局のプロデューサーで、現在は実業家として活躍されている方だそうです、と紹介した。

志穂は、沙紀の顔が一瞬歪んだのを見逃さなかった。ミーハーな沙紀にとっては、羨ましい相手に聞こえたに違いない。志穂は、見切

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インティメート・ボランティア 21

ボランティア先もひとつになり、志穂は、自然と星野の家を訪ねる回数も増えてきた。認めたくないが、休日に会う友だちもほとんどいなかった。

その日も星野の家を訪れていた。

急に冷え込んで肌寒くなったので、星野が奥にある寝室に、カーディガンをとりにいった。車椅子なので、時間がかかるが星野は自分でできることは自分でしたがった。

志穂は紅茶を淹れるため、湯を沸かした。白い湯気がたってきて幸せな気分になり

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インティメート・ボランティア 20

履歴書を送付してから1カ月たったが、来るのは不採用の通知ばかりだった。負けずに次の週に、また10通程度出したが結果は同じで、不採用通知の山が溜まるばかりだった。

志穂は、以前の同僚のコネでも使おうかと迷ったが、止めることにした。単純に借りを人に作りたくなかった。会社で何かあったら、それだけでも惑わしいのに、コネで就職したらそれこそ逃げ場所がなくなってしまう。

明日が週末で、星野のマンションに行

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インティメート・ボランティア 19

次の週末になる前に、またボランティア団体から電話がかかってきた。今度は、ミヤケの訃報だった。

ボランティア団体は、ミヤケの葬式について、ベルトコンベアーが流れるように、てきぱきと伝えてきた。最後にちょっとだけ人情味を帯びた声色で、事務局の人は付け加えた。

「ミヤケさん、身寄りがなかったから、お葬式に出るのは、私たちのほかはいません。もし、よかったらミヤケさんのお気に入りだった志穂さんが来てくれ

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インティメート・ボランティア 18

週中に、めずらしくボランティア団体から志穂に、電話が入った。

ミヤケが急に様態が悪くなり、しきりに志穂と会いたがっているので、週末になる前になるべく早く、ミヤケのところにお見舞いに行ってくれないかという電話だった。

志穂は、次の日に半休を取ると、ミヤケのアパートを訪れた。すでに到着していた介護ヘルパーが、志穂を部屋に通してくれた。

いつもの薄っぺらい蒲団のなかでミヤケは、蒼い顔をして横たわっ

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インティメート・ボランティア 17

このまま行くと、自分の人生は、うまくいっても、もう少しましな仕事につき、もう少し大きな、多分1LDKのマンションに住むぐらいで終わってしまうだろう。さりとて、悪くいっても、このままフリーターで食いつなぐことはできるかもしれない。しかし、病気になったときなど、何も保証もない。

田舎に帰ることもできるだろうが、帰って何をするでもない。早く結婚しろと両親や周りにとやかくいわれることを思うと、億劫になる

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インティメート・ボランティア 16

「まったく、何やってんの。メールにちゃんと書いておいたのに、読まなかったの」

沙紀が、呆れたような表情で腕組みして、威圧的に志穂にいった。

グループみんなに当てたメッセージの下に数行のメッセージが志穂宛に書いてあったのを、見逃し、志穂は沙紀にいわれたサンプルの手配をしていなかった。

「あと、1時間後に、クライアントのところに行かなければいけないのに、どうしてくれるの?」

志穂は表情を消して

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インティメート・ボランティア 15

1週間雨が降り続き、憂鬱な気分で、志穂はミヤケのアパートを訪れた。自分のワンルームのマンションと同じぐらいの広さだが、かなり老朽したアパートで、1階にあるミヤケのドアを叩くとき、ためらうほど気持ちは落ち込んでいた。

仕事と自分の将来についてぼやがかかったように先が見えないでいる。

しかし、2週間ぶりにミヤケの顔を見ると、自分でも驚くほど気が晴れた。天気雨のあと、ぱっと青空が広がるみたいに。

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インティメート・ボランティア 14

今日も志穂は、星野のマンションを訪ねている。このごろは、星野のところで、午後のほとんどをすごし、ときどき夕食も二人で食べるようになっていた。志穂が作ることもあったし、ヘルパーさんが作りおきしてくれているものを温めて食べることもあった。

二人でテレビを並んで見ているときに、志穂は、「星野さんは、セックスはできるの?」と今まで気になったが、遠慮して聞かなかったことを何気ないようすで聞いてみた。

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インティメート・ボランティア 13

ミヤケの精力は少しずつ強くなるようで、今まで、志穂が介助するように交じわっていたのに、近ごろはミヤケの方から積極的にときどき動いたりする。さすがに、終わったあとは、ぐったりとしているが、ミヤケは、ちょっと前と比べものにならないように、顔色がよくなった。

性欲は人を元気にさせる働きがあるようだ。

驚いたことに、ミヤケは志穂にアダルトビデオを買ってきてくれないかと、数回頼み、志穂は、なるべく目立た

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インティメート・ボランティア 12

働き始めて5ヵ月半すぎたとき、グループマネージャーの川崎に呼ばれた。話の内容は、次の3カ月の延長をしてくれるかどうかの確認だった。志穂は、他の仕事のあてもなかったので、よろしくお願いしますと頭を下げた。

仕事場に戻ると、沙紀が隣の2歳年下の男と何やら盛り上がっていた。どうやら今、人気のグラビアモデルにちょっと似ているといわれ、気をよくしてはしゃいでいるようさだった。

志穂に話すときとは、全然違

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インティメート・ボランティア 11

「だって、だれでも快楽を得るのは、嫌いじゃないでしょう」

志穂はいいながら、自分の顔が不自然に引きつったように感じた。星野から、ミヤケとの関係を見透かされたように思えた。

ミヤケを元気にしてあげようとしていたことが、自分が反対にミヤケを快楽の道具として使っているのだろうか。快楽を得るようなセックスではないが、確かに、ミヤケを満足させることによって、志穂は自分が女神になったような恍惚感を覚えてい

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インティメート・ボランティア 10

暑苦しいだけの夏はとおりすぎ、志穂が好きな秋がやってきた。

平日のうっぷんをいつしか志穂は、ボランティアで晴らすようになってきた。

自分がボランティアに行っているという概念を忘れ、星野のところにいくときは愚痴を聞いてもらうようになり、互いにいいたいことをいうような仲になっていた。

相変わらずポジティブな星野は、志穂がこぼれるように発する愚痴を、真剣に聞いてくれたあと、的確なアドバイスをしてく

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