インティメート・ボランティア 21
ボランティア先もひとつになり、志穂は、自然と星野の家を訪ねる回数も増えてきた。認めたくないが、休日に会う友だちもほとんどいなかった。
その日も星野の家を訪れていた。
急に冷え込んで肌寒くなったので、星野が奥にある寝室に、カーディガンをとりにいった。車椅子なので、時間がかかるが星野は自分でできることは自分でしたがった。
志穂は紅茶を淹れるため、湯を沸かした。白い湯気がたってきて幸せな気分になり火をカチリと止めた。
星野の好きなアールグレイの葉を透明のポットにいれ、お湯をそっと注ぐ。濃いめの紅茶に砂糖を少しいれるのが、彼の好みだった。
珍しく砂糖を入れてあるポットが空になっていたので、買い置きのものがないか引き出しをあちこち開けてみた。すると引き出しの大分奥の方から銀行通帳らしきものが目にとまった。志穂は、星野がまだ戻ってこないか確かめると、そっと中を覗いた。
通帳の金額は、自分が思っている以上の丸が並んでいた。億の単位だ。
物音がしたので、志穂は素早く通帳をもとの場所にしまうと、振り返り、寝室から出てきた星野を見た。
「お砂糖が切れたので、捜していたの」
引き出しを閉めながら、志穂はいった。顔が火照っているのが自分でもわかった。人の秘密を盗み見したようで、さすがにバツが悪かった。
自分は金に対して、そんなに執着がなかったつもりだが、生まれて初めて億の金額が入った通帳をみたら、心がざわざわと動いた。
あの貯金額があれば、星野と一生暮らしていけそうだ。金は、志穂に妄想を駆り立て、安心感を与えた。
引き出しのなかにあった鍵を星野に見せながら、志穂は思い切って訊いた。
「ねえ、この合鍵、借りていいかしら」
一瞬沈黙はあったが、「もちろんだよ」と星野は微笑みながら応えた。
今度、星野が結婚話を持ちかけてきたら、自分の気持ちがどうであろうと、承諾の返事をしようと、そのとき志穂は心に決めた。
自分にとって最後のチャンスが今なのかもしれない。