インティメート・ボランティア 17
このまま行くと、自分の人生は、うまくいっても、もう少しましな仕事につき、もう少し大きな、多分1LDKのマンションに住むぐらいで終わってしまうだろう。さりとて、悪くいっても、このままフリーターで食いつなぐことはできるかもしれない。しかし、病気になったときなど、何も保証もない。
田舎に帰ることもできるだろうが、帰って何をするでもない。早く結婚しろと両親や周りにとやかくいわれることを思うと、億劫になる。それぐらいなら気楽に、東京での暮らしを、ひっそりと続ける方が気楽だろうと志穂は思った。
あらためて女一人で生きていくことの大変さがしみじみと身体に染み込む。
14、5年前は、面白い仕事をして、素敵な人に出遭って結婚する、ということを当たり前のように思っていたが、32歳になった今も、短大を卒業したときと同じような生活を、ずっと続けている自分を思うと、ますます憂鬱になった。
学生時代の仲のよかった友だちは、次々に結婚して子供もでき、今は子育てに追われている。たまに電話をしても、興味や価値観が大きく離れてきたのを感じる。子供の泣き声が聞こえると、それを理由に志穂は、そうそうと電話を切ることが多かった。
仕事を楽しんでいたときには、専業主婦に納まり、ユニクロのカジュアルな装いをユニフォームのように着て、何とも思わない友だちを見て、優越感を持っていた。しかし、何も誇れる仕事も恋人もいない今は、眩しいぐらいに彼女たちが羨ましくなることがある。
居場所がない。
自分の居場所がどこにもない。
属すところが、どこにもない。
志穂は、自分が落ち着ける居場所が欲しかった。
ピーッとけたたましいお湯が沸く音で、志穂はわれに帰ると、暖かい湯気が顔を覆った。
湯気にまみれて、頬を静かに一筋の涙が落ちた。志穂は、一人ぼっちの部屋なのに、大きな声で泣くことも許されていないように感じた。
そして、前に涙を流したのは、いつだっただろうと思った。