インティメート・ボランティア 12

働き始めて5ヵ月半すぎたとき、グループマネージャーの川崎に呼ばれた。話の内容は、次の3カ月の延長をしてくれるかどうかの確認だった。志穂は、他の仕事のあてもなかったので、よろしくお願いしますと頭を下げた。

仕事場に戻ると、沙紀が隣の2歳年下の男と何やら盛り上がっていた。どうやら今、人気のグラビアモデルにちょっと似ているといわれ、気をよくしてはしゃいでいるようさだった。

志穂に話すときとは、全然違う鼻にかかった甘え声で、「そうかなぁ」といいながらも、満更でもなさそうだ。

川崎は、ちょっといいですかと前置きして、場を静めると、自分の部下である5人のメンバーにいった。

「中村志穂さんが、来月からも継続してアシスタントをしてくださることになりました」

5人のメンバーは、それぞれよろしく、と軽くいって、仕事に戻った。

しかし、沙紀が「どうせいると思ったわ」と低くどすのきいた声で独り言をいったのを志穂は聞き逃さなかった。その言葉は、志穂の脳裏にこびりついた。

家に帰る途中、スーパーで買い物をした。ダイエットと健康のため、なるべく野菜をたっぷり取り入れたものを作るようにしている。料理は、嫌いではなかった。

派遣という形で働いていると何も保証がない。仕事を休めばそれだけ収入が減ってしまう。自己管理をしっかりとして健康に気をつけなくてはいけない。

スーパーのあと、志穂はふらりと普段はあまり行かないコンビニに立寄った。そして店を出るときには、就職情報誌を手にしていた。

帰宅すると一人分の食事を作った。肉じゃがとサラダ、ご飯と味噌汁を添えた夕食を用意すると、ワンルームマンションの真中に置いてある丸いテーブルに運び、食べ始めた。

人の声を聞く為につけているテレビから、「外国の富豪に嫁いだ日本人の嫁」特集が流れてきた。

ベッドを背もたれにして、食事をしながら見るともなく見ていると、大きな庭園で優雅に食事をしている風景や、高級車に乗ってブランドの服を買いにいく女の映像が流れている。「社交がお仕事という感じで、こう見えても結構大変なんですよ」と、自分と同じぐらいの30がらみの女が、テレビのなかで華やかに微笑んだ。

結局、人生お金なのかしらねと溜息をついた。今度は、買ってきた就職情報誌をめくった。ぱらぱらとページをめくったが、自分がやりたい仕事は、ありそうでない。

志穂は、雑誌を横目で見ながら、肉じゃがの牛肉に荒々しく歯を立てて食いちぎった。

いっそ、星野さんと結婚しようかな、そしたら、働かなくてもよさそうだしと、頭をよぎる。星野は40代なかばなので、自分とは10歳ちょっとしか年の差はない。身体障害を負っているが、それを差し引いても充分な魅力がある。

二人の新婚生活を想像すると、悪くはない。星野の世話をしなくてはならないだろうが、後は好きにできそうだ。

万が一、そういうことになれば、ミヤケへのボランティアも終わりにしなければならないだろう。ミヤケの顔を思い浮かべると、志穂のなかになぜか慈悲心が浮かんできた。





 

いいなと思ったら応援しよう!