インティメート・ボランティア 11
「だって、だれでも快楽を得るのは、嫌いじゃないでしょう」
志穂はいいながら、自分の顔が不自然に引きつったように感じた。星野から、ミヤケとの関係を見透かされたように思えた。
ミヤケを元気にしてあげようとしていたことが、自分が反対にミヤケを快楽の道具として使っているのだろうか。快楽を得るようなセックスではないが、確かに、ミヤケを満足させることによって、志穂は自分が女神になったような恍惚感を覚えているのは確かだった。
若い肉体を与えてあげているという自負から得る快楽は、アイドルが得ているものとさほど変わらないのかもしれない。
星野のアイドルA子を見下げる態度を自分の上に感じ、息苦しく感じた。
「ごめん、話が下世話すぎたかな。何か顔色悪いよ。志穂ちゃんには、刺激が大きすぎる話だったね」
星野は、自分の手を隣に座っている志穂の手に重ねた。星野の目には、堅気のOLでまじめにボランティアをしているいい子にしか写っていないのだろう。
「そんなことないですよ。わたしも大人ですから」
「そうだね。いっとくけど、ぼくもまだ現役だから、いつ狼に豹変するかわからないから、気をつけておいた方がいいよ」
本意がつかめないような、本気とも冗談ともとれるような曖昧な表情で星野はいった。
こういうときに、星野の処世術のようなものを志穂は感じる。自分の居場所をきちんと確保し、逃げ道が必要ならそれも同時に用意する。器用な生き方だ。
「あら、わたしこそ急にA子のように誘ったりするかもしれませんよ」と冗談っぽく志穂はいった。
「ウェルカムだね。志穂ちゃんだったら」
今度の星野の言葉は、変に熱さを帯びたものだった。志穂が横を見ると、 星野は、志穂の目を見詰めている。
「ぼくも、ずっと一人で生きていたいとは思っていないよ。今までやりたい仕事はやってきたし、一生生きていける貯金も収入もある。志穂ちゃんが、こんなおやじとでもいいと思ってくれるなら、ぼくはいつでも君と一緒にいたいな」
今度は、積極的な言葉を星野は投げかけた。そんなことをいわれて嬉しかったが、それと同時に志穂は、追い詰められている鼠のような気分になった。
星野は、敏感に場の雰囲気を読むと、「別に今どうこうという話じゃないよ」と微笑みながら、話を素早く違う方に向けた。
そのあとは、数分前の話はまるでなかったことのように、アールグレイティーを飲みながら時間はすぎていった。