インティメート・ボランティア 19
次の週末になる前に、またボランティア団体から電話がかかってきた。今度は、ミヤケの訃報だった。
ボランティア団体は、ミヤケの葬式について、ベルトコンベアーが流れるように、てきぱきと伝えてきた。最後にちょっとだけ人情味を帯びた声色で、事務局の人は付け加えた。
「ミヤケさん、身寄りがなかったから、お葬式に出るのは、私たちのほかはいません。もし、よかったらミヤケさんのお気に入りだった志穂さんが来てくれれば喜ぶと思いますよ」
「わかりました。考えてみます」というと、志穂は、受話器を下ろした。
不思議と涙は出てこなかった。この前、ミヤケのアパートでありったけの涙を流してしまったので、乾いてしまったのかもしれない。
涙は出てこなかったが、志穂の身体のなかに大きな穴がぽっかりと開いた。同時に、得体のしれない恐怖が一度に襲ってきた。
ミヤケは、結婚して普通に働いて、子供はいなかったようだが、人並みの生活を送ってきたように見える。しかし、結局は、死ぬときは一人で、だれにも送られず去っていった。
自分が、死んだらだれか見送ってくれる人がいるだろうか。そして、以前読んだ新聞の記事をふっと思い出した。
正月が開けた7日ぐらいに、一人暮らしの老人が、こたつに入ったままテーブルにふせて死んでいた。死後10日間過ぎていたが、だれも気づかなかったという話だ。
自分もそんな死に方をするかもしれないと思うだけで身震いがした。
ミヤケが、亡くなってから、志穂は、ボランティア団体から他のところをいくつか紹介されたが、結局新しいところに行く気はしなかった。
ミヤケの葬儀にも、迷った末、行かなかった。
生きているか死んでいるか、あまり境目のない男だったが、葬儀に行くことによって、ミヤケという人間の死を確認することになる。それを目の当たりにして、自分は悲しい気持ちになるかもしれないし、案外何も感じないかもしれない。
それよりも、ミヤケの孤独死が自分の最後と重なることの方が怖かった。