インティメート・ボランティア 16
「まったく、何やってんの。メールにちゃんと書いておいたのに、読まなかったの」
沙紀が、呆れたような表情で腕組みして、威圧的に志穂にいった。
グループみんなに当てたメッセージの下に数行のメッセージが志穂宛に書いてあったのを、見逃し、志穂は沙紀にいわれたサンプルの手配をしていなかった。
「あと、1時間後に、クライアントのところに行かなければいけないのに、どうしてくれるの?」
志穂は表情を消して、目を伏せた。あともう少し、我慢すれば、どうにかなるだろうと思い、怒られるだけ怒られて、沙紀をすっきりさせたら、あの女のことだから、何か手を考えるだろうと思った。
あのメールも、よく見なければわからないように、さらりと書いてあった。そんなに大切なことなら、きちんと口でいうなりするだろう。また沙紀に、はめられた気分に志穂は陥った。
しばらくすると、「もう、いい。自分で何とかするわ」といって、出かけていった。
しかし、沙紀が、外出する直前に、自分の机の引き出しから、紙袋をまるで人目から隠すように取り出し、バッグに入れたのを、志穂は見逃さなかった。きっと自分で用意をしていたに違いない。志穂は、小さく舌打ちをした。しかし、このごろは、沙紀のそのような振る舞いにも、志穂は少し慣れてきていた。いちいち頭に来ていていたら、身体がいくつあっても足りないということが、わかってきていた。
新しく仕事先を見つけて、転職するまでの我慢だと思って、あと3カ月をめどに何とかしのがなければいけない。もう少し、熱心に仕事を捜そうと志穂はあらためて決心した。
仕事帰りに、志穂はコンビニによると、再度、就職情報誌と履歴書を買うと家に帰った。
家に帰ると、もう選んでばかりはいられないとばかり、条件があいそうな仕事を手当たり次第見つけ、10通の履歴書の小さな山を作った。
前日の残り物で夕食をとるために、テーブルから立ち上がると、小さな山はテーブルからに床に崩れ落ちた。
志穂はふーうと、深い溜息をつき、そのまま小さな台所にいった。
お茶を入れるために、お湯を沸かしながら、このまま自分は、このマッチ箱のようなワンルームで一生をすごすのだろうかとふと考えた。