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私は漂流している。時間を。空間を。 此処がなんであるのか。そんな事は解らない。考えても意…
『仁美』 この場所に一人で通うようになってどれくらいが経つだろう。ここへ来たところ…
「具合悪いの? 保健室行く?」 優しい声だった。学校で聞くあたしへ対する初めての優しい声…
三限目の始まりを告げるチャイムが鳴り響くと、皆は散り散りに自分の席へ戻っていった。そし…
『陽太』 最後に見たのはうんこだった。 昨日オレは洋子の婚約祝いで昼間から酒を呑ん…
「こんな住宅地に森?」 ただ木々と、その隙間を 埋め尽くす雑草だけの世界に見える。まるで…
『潤』 大学へ入ってから、特に親しい友人も作らないまま半月程経っていた。 その日も僕はいつものように古今東西から旨くもまずくもない食べ物だけを集めたような食堂で昼飯を済ませた。破格の安価でなければこう毎日など食べには来ないのだが、そこは貧乏学生を地でいく僕だから仕方が無かった。 食堂を出てそのまままっすぐ歩いていくと、この大学が誇る桜並木が見えてくる。その桜のアーチを無視するように横切ると、校舎がよく見える場所に古ぼけたベンチがあった。 僕はいつもこの
彼女はよくパスタを作ってくれた。 インスタントスープをうまいこと味付けに使っていたので…
『穴』 辺りは淡い暗闇に沈んでいる。雲のない空から降る満月からの光は、頼り無くでは…
「二人共仲のいい兄弟みたいで見てて楽しいって洋子が言ってました。葬式の時にはこうしてお話…
それからどれくらいの時間が流れただろうか。 村山は穴の壁を調べている。そして不機嫌そう…
「いたいよぅ」 やがて陽太は少し落ち着きを取り戻したようだったが、紫色の指の形をした痣か…
『康広』 今思えば、俺たちはいつも桜の木と会話していた。会話といっても、たまに陽…
夢だと思っていた。 でもこれは夢じゃない。月明かりに照らされて、僅かに見える木の枝にぶら下がったランタンに気付いた時、俺はそう確信する。驚いたが、不思議と受け入れることができた。そして理解した。それは桜の木が俺に、最初にかけた魔法のようなものだったのかもしれない。 なんだか涙がでた。やはり涙脆くなっている。しかも今度は陽太に見られた。でも構わなかった。 嬉しかった。 「全く……昔から普通の桜じゃねぇとは思ってたけど……」 そう言って下を向いて少し泣いた。嬉しくても