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閑文字

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詩をまとめています。楽しんでいただけたらうれしいです。
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型抜きの痕

型抜きの痕

半袖から伸びた、日焼けした腕の先、きみは
ミディアムレアの指で、手折った桜を差し出
す。代わりに渡した五百円玉が歪みそうなく
らい熱を持った夏の日。
好きも契約関係なんだからさ。
ビニール傘のみたいな中手骨を感じる。簡単
に折れてしまいそうになるのに、恋人つなぎ
なんて名前をつけたのは誰なんだろう。きっ
とぼくらみたいな、桜が咲くときの爆発で一
部分が欠けた人たちだったんだろう。
暗い部屋で、白い

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グレーのポロシャツが汗で地層

グレーのポロシャツが汗で地層

この街の横断歩道の脇には
螺旋状の地層がある。
雑巾絞りされたチョコレートケーキ
みたいな、石と骨と
あったかかった部分たちが溜まった土塊が、
肉体から出ていかざるを得なくなった
魂が天に昇るみたいに立っている。
青空には届かなかったけど、テニスラケット
に打ち上げられた光を浴びている。
 
LEDライトのレジンに固められたレンガが、
黒いコンクリートをモルタルにして
積み上がる。
航空障害灯が、

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四歳は改札前で、

女の子は、
はじめて人形を買ってもらった時に、
母の愛を知る。
ほっぺと胸と、おなかと腕で、包み込む
タオル地の感触から
まもるものがあるという責任感と、
まもるものがあるという安心感が
染みついてくる。
いつボールが飛んでくるか分からないから、
アンパンマンとわんちゃんしか
みえなかった世界から
新たなものを彫りだしていく。
ジーンズみたいに亀裂が入ったら、
ヒジャブを被せるみたいに
腕を引っ張

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今日生

今日生

はれると花冠を開いて、
くもると閉じる。光に呼応して生きるのが共生だ。
松明に星たちが殺されていって、満天が
六十天の星空になったから、
焼け野原から生還した者たちで星座の物語をつくった。
松明のあかりに照らし出された石舞台は、長野県みたいに
大地に填め込まれた重厚感があって、
虚飾を纏ってもキケロに見える。
彼の息が炎と
オーディエンスの心を揺らし、石壁に移る影のように
肥大した言葉を放つ。

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トン、スーッ、タン、タン、で掻き出した心が、
ボールペンの勢いを使って
動きだして、薄紫の渦を起こす。
ホームページアドレスのドット
みたいな粒粒が、中央に堆積していって、
星雲への孔が空く。
縁に化石の蜥蜴の手を掛けて、
地球の空気でボルダリングをするように、
上顎だけのT・Rexの骨が這い入ってくる。死に渇いた骨が
カラカラと間抜けな音を立てるが、
眼窩の奥には
几からすべてを見透かす蝋燭の火

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エイス

地球は、ゴツゴツ欠けた星肌に、水のラベルを貼っている。お日様がいらなかった水を
押し付けられたんじゃなくて、地面が水を求めてるから、
川を作って流して集めた、球状の水溜まりが
碧く光を反射する。地球へ向かって、
トイレの鏡の前でいじる前髪みたいに伸びた、
デブリの橋がゆらゆら揺れて、繋いだ手から心が同調していく。
剥き出しになった月の肌は、白く乾いて粉を吹いて、
垂らされた水は溶けて消えてく。いの

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咳をしても、豚モヤシ

今日は豚肉を入れられたモヤシ炒めを食べ始めたら、箸が止まらなくなって、思っていた以上に身体がエネルギー欠乏状態だったんだなって思った。胃をかき鳴らして、ボーカロイドみたいに空腹を主張されるまで、身体の残りエネルギーを示すメーターには目を向けていなかった。角の取れたポン酢味のモヤシが、口の中でシャキシャキ音を立てる。不味いセンサーが反応しないなら異常なし。でも、これが好きなんだねって云われると首を傾

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絶対領域・相対領域

飛沫防止のアクリル板が机に固定されていると、
人間関係が勝手に決められているみたいで、
満員電車の中でなった抽象芸術の銅像みたいな態勢みたいになる。
校庭に足を引きずって引いた線みたいに、
机の上はスマホと皿で出来上がる、
ガタガタのリアス式海岸線がいい。
定規で引いた国境線は、
地図上で見たら綺麗で満足かもしれないけど、
“なんか”を切り裂いている。

花々言葉

花が、ぼくが言葉を話すときに、歴史とか誤解とか比喩とか根源とか本質とか本音とかを詰め込むから、もういいよってきみがぼくの頸を切り落とすみたいに、コンクリートに落ちた。血は流れずに、コロコロと転がって動かなくなった。花と言えば桜、って云われ続けるから、花が落ちるさまは、ひらひら舞って奥に制服を着た女の子が立ってる、みたいに思っていたから、バチンと叩きつけられるように落ちると、潔い驚きを感じる。落ちて

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感情遅延証明

電車の中でコイバナをはじめられると、後ろのサラリーマンに聞かれてるのが気にならないのかな、とかが気になって、心臓がストレス発散のための玩具みたいに握られる感じがする。指の間から膨らむ、液体が入ったゴム風船が、喉の奥に詰まっても、言葉は出せる。指揮者に合わせて譜面通りにしゃべる、オーケストラな会話。話題が移って身体が緩んでから、自分が強張っていたと分かって、緊張していたんだって知る。
恋に落ちるのは

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広場が戻ってきた

広場に戻ってきた。夕風が、脂っぽい暑さに、清涼感を加える。むかしは、かばんと水筒を置いていただけのベンチに、いまは腰掛ける。ちいさくて、すわり心地も、あまりよくないことを知った。地面の砂は、砂というより石のこどもっていう感じで、灰白色でジャリジャリ鳴る。砂利はザクザク。滑りやすくてよく怪我をしていた。怪我は元気の証拠、って言われてたけど、細かいいさごは結構痛かった。
広場を離れて、いろんな道を歩い

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