感情遅延証明
電車の中でコイバナをはじめられると、後ろのサラリーマンに聞かれてるのが気にならないのかな、とかが気になって、心臓がストレス発散のための玩具みたいに握られる感じがする。指の間から膨らむ、液体が入ったゴム風船が、喉の奥に詰まっても、言葉は出せる。指揮者に合わせて譜面通りにしゃべる、オーケストラな会話。話題が移って身体が緩んでから、自分が強張っていたと分かって、緊張していたんだって知る。
恋に落ちるのは一瞬だよ、って言われるたびに、月だったら落ちる速度は変わるのにな、って思う。視線が捉えたら、瞳孔が開いてキラキラして見えて、心臓が脈打って血流が加速して、耳まで熱くなって、好きなんだって思う。肉体の動きが即座に電気信号に圧縮されて、ひかりの様に感情まで到達する。火花をまき散らしながら走るから、思わず手を引っ込めてしまう。車窓の風景がビル群に変わっている。一瞬で感情まで行けないから、何もかもに乗り遅れる。