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閑文字

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詩をまとめています。楽しんでいただけたらうれしいです。
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【詩】森の家

風が頬を撫でるとき、僕は地球を撫でていることになるのだろうか?
草花に触れることのなくなった僕のことも、地球は変わらず
撫でてくれます。風に吹かれるススキの葉を見ていると、
あなたを思い出します。買うべき本と同じ光を、「あ」という感覚で捉えて
カメラを構える。光は便利だ。光は、お金みたいに変換できて、とても便利だ。
みんなみーんな、光を求めて、夜は嫌われ者になった。
ピカチュウは人気者になった。

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【詩】茶化す

春はその年の仕事を終えたと思い、夏は低気圧の頭痛に悩まされている時期
季節の目を盗んで開けた窓から吹きこむ風は、
エアコンの風みたいに剥き出しではなかった
カドが剥き出しになった音程で
月のように頭の回転が止まって、喉が詰まって言葉が絡まって
心臓が地下室のように凍る
という経験を嫌という程してきたのに
自分からその音程が出ることがある
だから声帯を捨てることがやさしさだと思っていた
しかし、茶化

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【詩】違和感を演じられる真面目な人

ベロは表面にある内臓。
内臓は生体活動に特化しているから、
人に見せられる見た目をしていない
だから、ベロを出していると違和感がある
  気温三十度を超えた五月の舗装路の上
  突然変異種のヨガのポーズ
 オレの才能ってこんな形なんだぜ
星空を纏ったドレスは
飽きられてしまって、
孵化厳選で明かした夜の
チューブトップに着替える
原石のままのネックレスをする。
まだ、窓を開けられる時期だから
風を

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【詩】月の岬からDIVEする

時間にDIVEしている
魚めがけて海中にとび込む鳥みたいに
DIVEしている
時間にDIVEしつづけている
魚めがけて海中にとび込む鳥みたいに
DIVEしつづけている
かみさまは
気軽に時間にとび込む人間たちに
魚めがけて海中にとび込む鳥みたいな、
欲望に忠実な滑稽さを感じている
ビルの上から、サイダーにDIVEするのは躊躇する
立ちのぼる泡々が発する音は、
悪魔の寝息のように
ぬめぬめしていて、

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【詩】かめら

カメラといえばスマホの世代は、想い出がセピア色じゃない
いつからか写真を撮っても、
映像が手の中に残るようになった
チョコレートを口に入れて
ちょこれいと、としかいえない味になるように
混乱する
墨をはかれたように一気にひろがる夜に、
地面から洪水のように雨が降っているゆめで、
感じた恐怖が、
目が覚めても身体に残っていて、この感情が
現実なのかわからない
雨の度に、宇宙は溶けているのかもしれない

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風と石

世界中をふきあるく風が
わたしの顔と出くわすのは奇跡だろうか?
エアコンの統制下にある部屋の
窓を開けられるわずかな時期
春は役目が終わったと思い、夏が
まだ動きださなくていいと思っている隙間の時間
目を盗んで深夜の高速を走る
わたしが助手席に座って、
言葉を空気に乗せて、運ばれるのを待つ、
かすかな会話
 
硬くて軽くて当たると痛い
音程の言葉で、
思考が動かなくなったり、喉が詰まって
言葉が絡

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ヴァレンタイン

冬を、逆手で握って、ふりあげて、
自分の太腿に突き立てるとあらわになる
春の温度
青空にも、驟雨にも、嘘をつかれているようで、
でも、もともと地球は宇宙しか見ていないというような
温度
温度だから実体なんかなくって、
体感した事実だけが、私の手の中にある
自分の骨を、有害な男らしさで打ちつけて、
舞う粉塵を吸い込んで、くしゃみが出る
思ったより危険度が高くて、
もうひとつ出る
胃から這い上がる溶け

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僕は歩くのが遅い

僕は歩くのが遅い
何車線もある大きな道路の脇を、ちいさく歩く
車がビュンビュン通り過ぎて、バイクは
無数の爆発を起こしながら進んで、
ママチャリが通って、学生が下校していく
僕はススメバチの死骸にぎょっとしている
ススメバチの濃黄色には、
見るだけで毒がありそうで、避けて歩く
よく見たら“Have a NICE DAY”と書いてある
極彩色で巨大な看板
駐車場をはさんで向かいにある、黒い建物に波打

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月面都市

月面都市に住んでみたら、六分の一の重力が、知識ではどうにもならない不安感を、内臓がフワッと浮くみたいに与えて、みんな、太陽系を前に、惑星のように縛り付け合った。雑談で嘘をつく必要のある社会みたいに白い洞穴みたいな住居が、光の当たるところに集まっている。夜というよりはただの闇の頭上で、星というよりはただの巨岩が、大渋滞を起こしている。波が人間の世界と人間外の世界を分けるように、空が彼女と言い換えるこ

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育てやすい子

食べるが誇張された皿に、
レシピで構造化された料理が、盛られている。
それをだれの手もかりずに食べれるみどりごがいる。
にんじんの“にん”と“じん”のあいだから溢れ出る、春の甘さと皮の香りは、実家が解体されているときに、柱の折れたとこから漂う想い出みたいなものなのに、自分が産まれる前に、うまれた廃墟に、きみは心を奪われている。
いつから世界の朽ち葉が社会の歯車になったのかなぁ。
電気がなくても、春

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“一線を越える”という現象に、「一線を越える」という言葉以外で近づく

公園デビューしたときから作っていた
砂の城は、具現化された死が
生命を奪おうと伸ばした手みたいな白波に触れられて
溶け崩れた 改札脇のキスを見られてキレる恋人たちの
残酷さと同じ白さの砂が、濁ったエスプレッソに変わる
黒が、白砂の中の、暗闇に消えていく
金星まで5500万km
 
月が落ちて太平洋プレートを砕く音も、
窓まで凍える夜には消されてしまう
朝になったら、拡散される迷惑行為みたいな
純粋

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【詩】二杯目の水

ラーメンの海苔はスープに半身浴させて
パリパリ感を残したまま麺に巻いて食べる。
このとき、麺は少なめに取る。
口の中で海苔を楽しめるように。
追加でトッピングできない私の、贅沢な食べ方。
お冷がお持ちされた。
すでに私の手元にはあるのだが、お持ちされた。
カウンターの上にはピッチャーがあり、隣のおじさんにはきていないところを見ると、
たぶんミス。
ラーメン屋では珍しく、同じ人に配属になった二つ目の

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