僕は歩くのが遅い
僕は歩くのが遅い
何車線もある大きな道路の脇を、ちいさく歩く
車がビュンビュン通り過ぎて、バイクは
無数の爆発を起こしながら進んで、
ママチャリが通って、学生が下校していく
僕はススメバチの死骸にぎょっとしている
ススメバチの濃黄色には、
見るだけで毒がありそうで、避けて歩く
よく見たら“Have a NICE DAY”と書いてある
極彩色で巨大な看板
駐車場をはさんで向かいにある、黒い建物に波打つように反射して、
その駐車場が、夢と現実の狭間の
まどろみの中みたいになってる
緑の外壁に、柱を二次元で模倣したような赤い線が二本
空に向かってはしっている、マンションを
近くで見ると、生垣がベニカナメモチで、
自然を拡張して建てられたみたいだ
躑躅の香りは、咲いた花の量に対して弱すぎて、
臆病者のように、立ち止まってくれた人に対して
全力で感謝してるようだった
曇り空の日は、音楽が似合う
音楽は、詩と違って発光するから
光のすくない日でも楽しめる
高級車販売店の、窓というより、一面ガラスの壁
外光を取りこむしかなかったものが、整列したLEDの光を弾き出す
雨も風も経験したことのないであろう
車体の表面を、光が滑る
まるで、価値があるのは物ではなくて
自分を買った事実だと言うようで、
木漏れ日みたいだった
通り過ぎた樹木を振り返っていると、
感性が歩幅にも置いていかれたりするのだなと思う
人間がつくれないものも、つくったものもおもしろい
基準は知らないけど、感動は分かるから
いたずらっぽく笑いながら言う
歩くのが遅いっていいだろ