【短歌】 夜更かして最後まで読んだ小説は空の端でも見つけられる光 出会っていただきありがとうございます。
【短歌】 昇降機のスイッチの上で正座して母の帰りを待つタンブラー 出会っていただきありがとうございます。
【短歌】 五時の鐘混ぜ合わされる多摩川で帰るところが分からなくなる 出会っていただきありがとうございます。
【短歌】 車から風の景色をのぞく犬 うしろの足が太腿に刺さる 出会っていただきありがとうございます。
【短歌】 芸術でごはんを食べる女郎蜘蛛その美しさに投げ銭をする 出会っていただきありがとうございます。
【短歌】 やるまえに起こりそうなこと考える窮屈なおれにドーナッツあげる 出会っていただきありがとうございます。
【短歌】 文房具見ていたときの高揚が布団の中でふとよみがえる 出会っていただきありがとうございます。
【短歌】 かなしみはとけたモッツァレラのように ベッドに投げ出された半袖 出会っていただきありがとうございます。
【短歌】 ーー見たくない現実を見透す 出会っていただきありがとうございます。
【短歌】 夕食後写真が動くと騒ぐ母そういう機能と答える弟 出会っていただきありがとうございます。
【短歌】 痩せきって自立できない歯磨き粉わたしを連れ出すのに成功する 出会っていただきありがとうございます。
【短歌】 三、四、五、六、七、九、八と並んでてあなたに喋れるキャラのこと思う 出会っていただきありがとうございます。
【短歌】 定時過ぎ信号待ちの間を埋める幼子が振るじゃがりこの音 出会っていただきありがとうございます。
【短歌】 ひもすがら朝の焦りを保ってたシングルベッドに出迎えられる 出会っていただきありがとうございます。
【短歌】 「ごめんなさい」「いいよ」の教えが問題の種蒔きと思う秋の夕焼け 出会っていただきありがとうございます。
【短歌】 首筋の甘い匂いを汗と言う人のことなど無視してくれよ 出会っていただきありがとうございます。
【短歌】 コピー機が雄弁に吐き出す紙に「こよ、あなたのつみはゆるされた」 出会っていただきありがとうございます。
【短歌】 緑の葉喰い尽くされた瘦身にまだ絡んでる残暑の光 出会っていただきありがとうございます。
【短歌】 雲切れる渋谷上空 誰の目も気にせず泳ぐあの虹は雌 出会っていただきありがとうございます。
【短歌】 ーーおろし金のような 出会っていただきありがとうございます。
【短歌】 畦道を黄金の霧が包むよに香水匂う日曜の駅 出会っていただきありがとうございます。
【短歌】 ラーメンのようにタイムラインをすすっている 誰も降りない駅に着く 出会っていただきありがとうございます。
【短歌】 母方の秘伝のレシピばあちゃんの右の手にしか記録されてない 出会っていただきありがとうございます。
【短歌】 背景にぼかしをいれるわたしの眼このシャッターは切ってはいけない 出会っていただきありがとうございます。
【短歌】 ここじゃないどこかに向かうというように川に向かって散っている桜 出会っていただきありがとうございます。
【短歌】 ジュンク堂を後にする男の子になでられているきょうりゅうずかん 出会っていただきありがとうございます。
【短歌】 他人にも見せてもいいと言いそうな他人には見せてほしくない姿 出会っていただきありがとうございます。
【短歌】 闇の夜を防いだ本を読み終える冴えた眼に白んだ障子 出会っていただきありがとうございます。
【短歌】 汗を拭き眼鏡をかければ快晴のフィレンツェのドゥオーモのキューポラに人 出会っていただきありがとうございます。
【短歌】 日を受ける隣の家の外壁の登頂を目指すカマキリ一匹 出会っていただきありがとうございます。
【短歌】 漫画読むしぐさが指でスクロール本棚のない部屋を浮かべる 出会っていただきありがとうございます。
【短歌】 ほっぺたを両手で挟んでキスをするただいまの言葉の前にする 出会っていただきありがとうございます。
【短歌】 線のないイヤホン外して散歩する秋風の期間は減り続けるから 出会っていただきありがとうございます。