【詩】二杯目の水

ラーメンの海苔はスープに半身浴させて
パリパリ感を残したまま麺に巻いて食べる。
このとき、麺は少なめに取る。
口の中で海苔を楽しめるように。
追加でトッピングできない私の、贅沢な食べ方。
お冷がお持ちされた。
すでに私の手元にはあるのだが、お持ちされた。
カウンターの上にはピッチャーがあり、隣のおじさんにはきていないところを見ると、
たぶんミス。
ラーメン屋では珍しく、同じ人に配属になった二つ目のコップには
普通よりも多い水ががれている。
表面張力に、直接口をつけて減らしたくらい。
飲むときに一番神経を使う量。
二杯目の水、と
詩人はメモを取った。
 
まちがえて二杯目の水を持っていってしまった。
とても自然な流れで。
遠くから見れば、何の違和感もないように見えるだろう。
むしろ仕事ができるようにすら見える。
それゆえにバレたら一番恥ずかしいヤツ。
先輩にはバレてるようにも、誰にもバレてないようにも、
みんなが関心を止めないようなだけのことにも思える。
バイト初日で慣れてなかったことにしよう。
オーダーを伝える声も、BGMの
ビートルズに負ける。
All You Need Is Love
 
そういえば、野菜増し
(ほとんどモヤシ増し)になっていない。
無料だから言う程のことではないが、
なっていない。
ちょっと待てよ。
私はさっき、ラーメンを食べながらメモを取った。
詩についてのメモなのだが、学校でも職場でも
生鮮食品売り場でも詩人に会うことの珍しい現代日本では、
ラーメン屋でメモを取る人はラーメン評論家と思うのではないだろうか。
スープ、麺、トッピング、接客、内装をぞれぞれ10点満点でつけて、
分かりやすいように五角形で表すと思われるのではないだろうか。
今着てる黒の襟付きシャツも、
戦闘モードの服に見えなくもない。
どうして一週間ぶりに外に出る服をこれにしてしまったのか。
 
二杯目の水を飲み干して、店を出る詩人は
歯にはさまったほうれん草が気になっていた。



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