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『神の棲む島』

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瀬戸内のとある離島を舞台にした伝承ファンタジー。 平凡な少女の身に起こった、ひと夏の不思議な体験。完結済み。
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2014年7月の記事一覧

第十一章 再会(三)

第十一章 再会(三)

 どれほどのあいだそうしていたのか、気がつくと、神の怒りが爆発したような鳴動はおさまっていた。
 風も、静まっている。

 おそるおそる顔を上げた美守の目に、崩落した壁や土石の山が飛びこんできた。周辺は、いまだ濛々と土埃が上がり、視界が利かない。その惨状に息を呑んでゆっくりと身を起こすと、頭や躰に降り注いだ土砂がパラパラと落ちた。
 大音響に鼓膜を叩かれた耳が、頭の中で数万匹の羽虫がいっせいに羽ば

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第十二章 神の目醒め(一)

第十二章 神の目醒め(一)

 ビクッと身を竦めた雛姫の動きがそこで静止する。硬張った表情で視線を彷徨わせた雛姫の脳裡に、つらい選択肢を突きつけられていた現実が蘇った。

 大好きな真尋のために、本当に自分がしなければならないこと──

「雛、惑わされるな。奴の言葉に耳を貸すんじゃない! 俺を信じろっ」

 雛姫の表情の変化に気づいた真尋が、すかさずその注意を自分に向けようと声を嗄らして叫ぶ。見上げた雛姫の頬に、またひとしずく

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第十二章 神の目醒め(二)

第十二章 神の目醒め(二)

「自分がこんな怪力の持ち主だったなんて、たったいままで知らなかったよ。なんだかヘラクレスにでもなった気分だな。真尋くん、ひょっとしてダイエットした? 全然ふたりぶんの体重支えてる気がしないんだけど」

 言いながら、司は自分の躰を美守とトキがしっかり押さえるのを待って、もう一方の腕を差し出した。
 雛姫をまず司に、頭ではそう思っていても、雛姫を抱える腕はまったく動かない。落ちてきた雛姫を受け止めた

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第十三章 乾坤の狭間(一)

第十三章 乾坤の狭間(一)

 晦(くら)い隘路を進んでいるときに、波子は言った。

『姫様がお望みになるかたちで真尋様を救う方法はただひとつ。この先に祀られている島の守り神──荒ぶる神を、姫様なりのなさりかたで受け容れられればいいのです』

 ──あたしなりの、やりかた?

『ええ。真尋様は、それで自由になれます。真尋様が自由になれれば、姫様ご自身も御役目からきっと解放される。波子は、おふたりを信じてますわ』

 あのとき、

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第十三章 乾坤の狭間(二)

第十三章 乾坤の狭間(二)

「おまえ……っ」
「これまでの非礼の数々、心よりお詫び申し上げます」

 言うなり、波子は深々と頭を下げた。

「少々乱暴な手段になってしまいましたけれど、真尋様に確実に目醒めていただくためには、ああするよりほかなかったのですわ」

 波子は、お辞儀をしたまま頭だけ持ち上げて小首をかしげると、兄妹に向かって悪戯めいた笑みを浮かべた。その表情の中に、さっきまでの邪悪な気配は微塵も見当たらなかった。

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第十四章 真実の扉(一)

第十四章 真実の扉(一)



「姫様、じつはわたし、お嫁に行くことになったんです」

 頬を染め、恥ずかしげにそう打ち明けたお側仕えを、少女は驚いて顧みた。
 半紙に降ろしかけた筆が、しばし中空で静止する。充分に墨を吸わせた筆先から、黒い滴りがぽとりと落ちた。

「……え?」

 わずかに開いた朱唇から、吐息のようにひそやかな声が漏れ出た。
 7歳。年齢相応のあどけなさが残る、ふっくらとした頬のラインは、生まれながらにして

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第十四章 真実の扉(二)

第十四章 真実の扉(二)



 物心ついたときには傍にいるのがあたりまえとなっていた牧江が今日はいない。否、今日だけでなく、明日も明後日も不在となる。

『すぐに戻ってまいりますから、3日だけお休みをくださいね』

 もっと休んでかまわないと言った自分に、昨夜、牧江はいつもと変わらぬ笑顔でそう暇(いとま)乞いをした。
 社に出入りする者の数は日頃からさほど多くはなく、通常美姫の傍に詰めて世話係を務めている牧江も殊更口数の多

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第十四章 真実の扉(三)

第十四章 真実の扉(三)



 美姫は、先程から飽くことなく目の前ですやすやと眠る赤ん坊を眺めつづけていた。

「姫様、本当によろしいのでしょうか?」

 背後からかかった当惑気味の声に、少女は声だけで「なにが?」と問い返す。伸ばした人差し指をそっと赤ん坊に近づけて、ゆるく握った掌の中に差しこむと、赤ん坊は深い眠りに落ちたまま少女の指をしっかりと握り返してきた。
 少女の口許に、たちまち満足げな微笑が広がる。その背に、ふた

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第十四章 真実の扉(四)

第十四章 真実の扉(四)



 久々に社を訪(おとな)った巫部志姫は、床から起き上がった美姫と相対するなり単刀直入に用件を切り出した。

「いったいこれは、どういうことだえ?」

 ひややかな威厳を纏ったその表情には、いつもながら一糸の心の乱れも感じられない。だが、わずかにとがった語尾が、内心の苛立ちをはっきりと示していた。気づいていながら、美姫は素知らぬふりで一族の長に向き合う。

「どう、とは?」
「そらぞらしい返答は

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第十五章 禁忌と命脈(一)

第十五章 禁忌と命脈(一)

 ふと気がつくと、雛姫は先程目を覚ましたおなじ空間に茫然と立ち尽くしていた。
 目の前には波子がいて、少し離れた場所に控えるように『黒風』と名乗った青年もいる。そして傍らには真尋の姿も――
 自分を見下ろす真尋の顔は、心なしか蒼褪めているように見えた。

 ――いまのは……。

 茫然とする一方で、心の片隅では、大いなる混乱と恐慌が巻き起こっていた。

 すべては真夕姫と志姫の代にはじまった――

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第十五章 禁忌と命脈(二)

第十五章 禁忌と命脈(二)

 自分と真尋の血は、たしかに繋がっていた。だが、その繋がりの実態を知って、雛姫は愕然とした。

 姉妹であり、従姉妹でもある巫部の血筋が、御堂の直系と二世代にわたり複雑に関係し、近親交配を重ねた結果、誕生した生命。

 難しすぎてよくわからないながらも、母であって欲しかった牧江が、実の母ではないことだけはこれではっきりした。
 巫部側で巧妙な養子縁組を重ねた結果、互いの血の繋がりを知らぬまま夫婦と

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第十五章 禁忌と命脈(三)

第十五章 禁忌と命脈(三)

「このままでは《御魂》も島も、間違いなく荒ぶるものの力に呑まれてしまうでしょう」
「だったら……、だったら別の土地に移れば? 危ないなら、危なくない場所に引っ越せばすむ話じゃない」
「ええ、もちろんですわ。まさに姫様の仰るとおり、こんな恐ろしい島など見捨てて、さっさと皆で逃げてしまえば万事解決。めでたしめでたし、ですわね」

 波子は唄うように愉しげに言う。

「ですけど姫様、長い歳月を経て貯えら

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第十六章 解放(一)

第十六章 解放(一)

【神の力を受け継ぐ者たちは皆、己の裡にひそむエネルギーの強大さゆえに本来の寿命を待たずして力尽きてゆく。歴代の《御座所》も、資格を持って生まれ、その使命をまっとうしてきた姉妹たちも。当然、真夕姫に希望を託された宗佑も、そして牧江も──】

 澄んだ声が、耳許でやわらかに言葉を紡ぐ。

 ――だれ? お父さんとお母さんは事故で死んだのよ。ヒロ兄はそう言ってたもん。

【いいえ、それは真実ではない。《

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第十六章 解放(二)

第十六章 解放(二)

【《御座所》は短命。そしておなじく、風の神の血を引く宗佑も牧江も夭折した。人から人へ。神の力を引き継ぐことは、徒人(ただひと)の身にはあまりに重すぎる】

 やわらかな声が、雛姫の頭の中に語りつづける。

 真尋を助けたい。一心に願う雛姫の心に応えるように、わずかな可能性ながらも、突破口はあるのだと示唆する。ただし、失敗したときに払う代償は、真尋と雛姫、ふたりの命。

「いいです。それでもかまわな

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