マガジンのカバー画像

読書

24
読書記事まとめ
運営しているクリエイター

記事一覧

上間陽子/海をあげる

上間陽子/海をあげる

貧困、若年層のシングルマザー、沖縄米軍基地近隣にて起こる性犯罪、基地の返還問題を描いたノンフィクション作品だが、筆致はエッセイ風で各章のタイトルも可愛らしく、筆者自身の子供との日常生活や仕事などの日常の延長線上にある問題として淡々と書かれている。しかし、その筆致がいくら柔らかいからといって、その内容が、ずしりと重いことには変わりない。この書籍はバトンである。タイトルの「海をあげる」、この言葉を確か

もっとみる
村上春樹/ノルウェイの森

村上春樹/ノルウェイの森

又吉(直樹)さんは太宰治が好きだと公言することに最初迷いがあったという。

あまりに有名すぎて結局太宰かと思われそうだからだ。

同じく私も村上春樹が好きだと言うことに迷いがあった。

ハルキストという言葉もあるように、キザな書き出しで始まり洒落たバーで酒を飲みサンドイッチを食べてやたらとセックスする話でしょと思われている方も世の中には一定数いるらしいからだ。

もしくは、メタファーなど難解だと思

もっとみる
山崎ナオコーラ/人のセックスを笑うな

山崎ナオコーラ/人のセックスを笑うな

ユリ、こと、サユリは結婚している。
猪熊さんという52歳の夫がいる。

ユリとオレ、こと、磯貝くん(みるめくん)は俗に言う不倫関係だ。

2008年に井口奈己監督で映画化され、永作博美がユリ役を演じた。

このユリが可愛くて可愛いくて夢中になり何度も繰り返し観た作品だ。

小説よりも先に映像でこの作品に出会った。

当時、『青い春』『百万円と苦虫女』と並んでとても好きだった。

だがしかし、小説を

もっとみる
杉田俊介/宇多田ヒカル論 世界の無限と交わる歌

杉田俊介/宇多田ヒカル論 世界の無限と交わる歌

宇多田ヒカルと聞くと、先日最終話を迎え話題となった、吉高由里子主演ドラマ、『最愛』の主題歌「君に夢中」が、脳内に再生される方が今はまだ多いだろうか。

あるいは、2021年3月に公開された『シン・エヴァンゲリオン劇場版:||』主題歌「One Last Kiss」がいまだにこびりついて離れないという方もいるかもしれない。

宇多田ヒカルといえばエヴァ!と浮かぶ方も大勢いるだろう。

かくいう私も、ド

もっとみる

辻村深月/ふちなしのかがみ
ホラーやジュブナイルミステリーが大好きだった少女時代に辻村深月の作品に出会っていたら沼だったと思う。花子さんやコックリさんを扱ったホラー短編集。収録作"八月の天変地異"は大人が読んでも刺さるものがある。あの頃に戻れるような気がした、懐かしさの中で。

天袮涼/希望が死んだ夜に

天袮涼/希望が死んだ夜に

今思えば学生時代ほど、情け容赦ない理不尽、抗えない不条理に晒される年代があるだろうか。

“親ガチャ”という言葉があるように子は親を選ぶことが出来ない。

“カースト制”という言葉も集団生活においては実在する。

温かい食事暖かい布団清潔な衣類を毎日与えられて養われたという経験は決して当たり前ではないのだ。

貧富の差はそのまま学校生活においての“カースト制”に直結することもある。



この作

もっとみる
恩田陸/私の家では何も起こらない

恩田陸/私の家では何も起こらない

息の長い作家は、村上春樹の言葉を借りるならば皆、“職業としての小説家”だ。

彼らの中には唯一無二の持ち味を生み出しながらも、数本の柱を持っている作家が一定数いる。

村上春樹は、短編中編長編翻訳、

山田詠美は、外国人との恋愛を描いた作品と青春小説、

といった具合に。

中でも恩田陸の柱の多さには毎回舌を巻く。
しかもそのどれもが高く評価されるのだからもう舌はぐるんぐるん、唸ることさえ出来ない

もっとみる
世田谷ピンポンズ/都会なんて夢ばかり

世田谷ピンポンズ/都会なんて夢ばかり

世田谷ピンポンズ。今の時代を生きる若きフォークシンガーだ。

2015年には又吉さん(ピース:又吉直樹)と共作で曲を発表。

見た目は文学的、ご本人も古書店、喫茶店がお好き。

歌う曲は郷愁的、明るい曲調の曲もどこか物悲しく切実センチメンタル。そして、どこまでも優しい。上手くやれなかった日、自分のことが嫌いになりそうな時、聴くと救われる。
隣にそっと寄り添ってくれているみたいだ。

また、グッズが

もっとみる
島本理生/ファーストラヴ

島本理生/ファーストラヴ

なんの予備知識もなく、『ファーストラヴ』を手に取り読み始めて驚いた。

この作品が大衆文学であること

殺人事件というサスペンスが扱われていること

直木賞受賞作であること

これらの事実に。

私が描く島本理生という作家のイメージ、それは、純文学、恋愛小説、芥川賞受賞候補作多数、という文字の羅列だったからだ。

だが、しかし、読み進めていくうちに、紛れもなく島本理生という一人の生身の人間が生み出

もっとみる
伊坂幸太郎/逆ソクラテス

伊坂幸太郎/逆ソクラテス

各章少年の視点で語られる連作短編集だ。

とても暖かい筆致で描かれている。

この作品は、

【自分の視座をきちんと持つこと】

【見た目や周りの意見に流されず真実や本質を見抜く力】

が、いかに大切か教えてくれる。

これは、大人の世界でも子供の世界でも共通だ。

ビジネスシーンにおいて

SNSの世界において

メディアリテラシーという言葉もあるように、マスメディア、ニュースを観るにあたって

もっとみる
島本理生/あられもない祈り

島本理生/あられもない祈り

古典にもなり得る。
序文でそんな予感がした。
あまりに美しいものだから咏かなとさえ思った。
見た目は本だがこの作品は"恋”そのものである。私は今"恋"を抱えている。

から始まる最後の数行を読んだとき、予感は確信に変わった。

育った環境から人は逃れられないのか“あなた”と“私”の物語は、三年前の夏の日、二人一緒に岩場の陰で日の入りを待っているところから始まる。

物語の終盤、“あなた”と行きたか

もっとみる
若林正恭/表参道のセレブ犬とカバーニャ要塞の野良犬

若林正恭/表参道のセレブ犬とカバーニャ要塞の野良犬

Go Toトラベルが話題だが、誰かと一緒に行く観光を目的とした旅行には苦手意識と嫌悪感を抱き、一人で行く旅行には興味がない。

誰かと一緒に行く旅行は、行くことが決まったその日から緊張し憂鬱な日々が続く。幼い頃、毎年夏休みに用意されていた家族旅行も苦痛で、時期が近付くと情緒不安定になるほどだった。ちゃんと楽しめるか、心配なのだ。

テンションが高い人たちが苦手だ。例として挙げるならば、ディズニーラ

もっとみる
江國香織/ぬるい眠り

江國香織/ぬるい眠り

結婚する前は、その行為は[浮気]と名付けられている。

結婚した後は、[不倫]と呼ばれるらしい。

まるで、[にきび]と [ふきでもの]みたいだ。

同じこと、同じものなのに、呼び方が変わる。

しかも厄介なことに、後者は罰則付きなのだ。

私は、不思議で仕方なかった。どうして人の感情の動きに罰が生まれるのだろう。

不思議で不思議で仕方なくて、調べたりもした。

まあ当然、結婚という制度が関係す

もっとみる
カツセマサヒコ/明け方の若者たち

カツセマサヒコ/明け方の若者たち

「フジロック、IKEAでデート、ヴィレッジヴァンガードで待ち合わせ...同年代の筆者が描く物語、同時代を生きた者なら共感するだろう。」

というお触書を、Twitterのタイムラインで目にした。気になった。

その直後、普段からリプのやり取りをさせていただいているアカウントの方と、たまたま本の話になり、こちらの著書が話題にのぼった。

買うしかないと思った。

直後、『明け方の若者たち』の著者カツ

もっとみる