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山崎ナオコーラ/人のセックスを笑うな

ユリ、こと、サユリは結婚している。 猪熊さんという52歳の夫がいる。 ユリとオレ、こと、磯貝くん(みるめくん)は俗に言う不倫関係だ。 2008年に井口奈己監督で映画化され、永作博美がユリ役を演じた。 このユリが可愛くて可愛いくて夢中になり何度も繰り返し観た作品だ。 小説よりも先に映像でこの作品に出会った。 当時、『青い春』『百万円と苦虫女』と並んでとても好きだった。 だがしかし、小説を読んで反省した。 私はこの作品の持つ魅力を本当の意味では理解していなかったのだ

    • 思い出の交差点

      思い出の交差点、 ファミリーレストランのことを、しばしば私はこう表現する。 理由は自身でもわからない。 幼い頃から通うジョナサン(旧すかいらーく)もロイヤルホストも交差点に位置しているからかもしれないし、 席に着いた時、これまでその場で過ごした数々の時間や会話、思い出が交錯するからかもしれない。 幼少期、祖父母に連れられて通ったすかいらーく。 ナイフやフォークの使い方は隣の席に座るお姉さんの見様見真似で覚えた。ませていた。 祖父は決まってビーフシチューを頼んだ。

      • 上間陽子/海をあげる

        貧困、若年層のシングルマザー、沖縄米軍基地近隣にて起こる性犯罪、基地の返還問題を描いたノンフィクション作品だが、筆致はエッセイ風で各章のタイトルも可愛らしく、筆者自身の子供との日常生活や仕事などの日常の延長線上にある問題として淡々と書かれている。しかし、その筆致がいくら柔らかいからといって、その内容が、ずしりと重いことには変わりない。この書籍はバトンである。タイトルの「海をあげる」、この言葉を確かに受け取ったなら、何らかの形でアクションを起こさなければならない。1人では抱えき

        • 生きてるだけで、愛。

          これは、過去20代の頃にノートに残した殴り書きだ。 映画を観た人はわかるかもしれないが全く同じような台詞が劇中にある。 観た時、涙が止まらなかった。つらかった。 一対一で向き合うとどうにもこうにも絶対的に相手が不幸になる。幸せにできない。疲れさせる。わかっていてもどうにも出来ない。 * とてもとても好きな作品だ。 ヴァージニア・ウルフの遺書や、ダロウェイ夫人について描かれた映画、めぐりあう時間たちがとても好きな理由ときっと同じ類で。 この映画を作ったひと、この話

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          村上春樹/ノルウェイの森

          又吉(直樹)さんは太宰治が好きだと公言することに最初迷いがあったという。 あまりに有名すぎて結局太宰かと思われそうだからだ。 同じく私も村上春樹が好きだと言うことに迷いがあった。 ハルキストという言葉もあるように、キザな書き出しで始まり洒落たバーで酒を飲みサンドイッチを食べてやたらとセックスする話でしょと思われている方も世の中には一定数いるらしいからだ。 もしくは、メタファーなど難解だと思われる方もいるらしい。 だからこの場において春樹の小説に描かれていることは一体

          村上春樹/ノルウェイの森

          杉田俊介/宇多田ヒカル論 世界の無限と交わる歌

          宇多田ヒカルと聞くと、先日最終話を迎え話題となった、吉高由里子主演ドラマ、『最愛』の主題歌「君に夢中」が、脳内に再生される方が今はまだ多いだろうか。 あるいは、2021年3月に公開された『シン・エヴァンゲリオン劇場版:||』主題歌「One Last Kiss」がいまだにこびりついて離れないという方もいるかもしれない。 宇多田ヒカルといえばエヴァ!と浮かぶ方も大勢いるだろう。 かくいう私も、ドラマ『最愛』も、アニメ『エヴァンゲリオン』シリーズも、夢中で追いかけていた1人だ

          杉田俊介/宇多田ヒカル論 世界の無限と交わる歌

          やっぱ沼津だらvol.3/桃屋

          沼津市で生まれ育った。 東京都より新幹線で片道約1時間、静岡県東部に位置する海街だ。 街の真ん中に一級河川である狩野川の流れを有し、沼津アルプスと呼ばれる山稜線を望むことが出来、悠然とした自然と街並みが調和している。 狩野川の流れはそのまま駿河湾に注がれる。 のんびりとした解放的な空気が流れるこの街が大好きだ。 酔っ払い店を出た後、頬に当たる海風は気持ちいい。 そんな沼津の魅力や昔ながらの名店、新しくできた期待のお店等々を 『やっぱ沼津だら』 (「だら 」は方

          やっぱ沼津だらvol.3/桃屋

          古井由吉/杳子・妻隠

          『杳子』を一読した時、上記の杳子の科白にどうしようもなく共感し、 著者である、内向の世代と称される古井由吉に、心の中で、 「内向の世代最高!内向の世代ありがとう!言葉にできない苦しみを表現してくれてありがとう!純文学ひゃっほい!」 と叫んでいた。(一部脚色、叫んではいない。) その後、平常心を取り戻し、2回目3回目と読み重ねていくうちに、また違った角度からより深くこの作品を理解することが出来た(気がした)ので筆を取った。 それはもしかすると私自身が杳子の姉の側の人間

          古井由吉/杳子・妻隠

          辻村深月/ふちなしのかがみ ホラーやジュブナイルミステリーが大好きだった少女時代に辻村深月の作品に出会っていたら沼だったと思う。花子さんやコックリさんを扱ったホラー短編集。収録作"八月の天変地異"は大人が読んでも刺さるものがある。あの頃に戻れるような気がした、懐かしさの中で。

          辻村深月/ふちなしのかがみ ホラーやジュブナイルミステリーが大好きだった少女時代に辻村深月の作品に出会っていたら沼だったと思う。花子さんやコックリさんを扱ったホラー短編集。収録作"八月の天変地異"は大人が読んでも刺さるものがある。あの頃に戻れるような気がした、懐かしさの中で。

          天袮涼/希望が死んだ夜に

          今思えば学生時代ほど、情け容赦ない理不尽、抗えない不条理に晒される年代があるだろうか。 “親ガチャ”という言葉があるように子は親を選ぶことが出来ない。 “カースト制”という言葉も集団生活においては実在する。 温かい食事暖かい布団清潔な衣類を毎日与えられて養われたという経験は決して当たり前ではないのだ。 貧富の差はそのまま学校生活においての“カースト制”に直結することもある。 * この作品は大筋はミステリーだ。 動機は?真犯人は?とシンプルに楽しむことだってもちろん

          天袮涼/希望が死んだ夜に

          恩田陸/私の家では何も起こらない

          息の長い作家は、村上春樹の言葉を借りるならば皆、“職業としての小説家”だ。 彼らの中には唯一無二の持ち味を生み出しながらも、数本の柱を持っている作家が一定数いる。 村上春樹は、短編中編長編翻訳、 山田詠美は、外国人との恋愛を描いた作品と青春小説、 といった具合に。 中でも恩田陸の柱の多さには毎回舌を巻く。 しかもそのどれもが高く評価されるのだからもう舌はぐるんぐるん、唸ることさえ出来ない。 そうか恩田さんあなたは魔術師だったのか。 * 巻末に収められている〈恩

          恩田陸/私の家では何も起こらない

          世田谷ピンポンズ/都会なんて夢ばかり

          世田谷ピンポンズ。今の時代を生きる若きフォークシンガーだ。 2015年には又吉さん(ピース:又吉直樹)と共作で曲を発表。 見た目は文学的、ご本人も古書店、喫茶店がお好き。 歌う曲は郷愁的、明るい曲調の曲もどこか物悲しく切実センチメンタル。そして、どこまでも優しい。上手くやれなかった日、自分のことが嫌いになりそうな時、聴くと救われる。 隣にそっと寄り添ってくれているみたいだ。 また、グッズがとにかく可愛い。 ("絶版トートバッグ"や"文学とフォーク巾着"など是非本好き

          世田谷ピンポンズ/都会なんて夢ばかり

          読書感想文をめぐって

          2020年6月Twitter上で、ある一人の国語教師の発言が話題になった。 それが、 「『読書感想文』って必要なくない?」 という問いかけだ。 これがバズり、様々な声が寄せられた。 それらに目を通した所、読書感想文に疑問を感じている方々のご意見は主に「強制が良くないよね」という内容が多かったように私は感じた。 もちろん「読書感想文好きだった」という声や「有意義だ」というご意見もあった。 私はその賛否両論全てに頷きながら、「どれもこれも一理あるよな」と眺めていた。

          読書感想文をめぐって

          島本理生/ファーストラヴ

          なんの予備知識もなく、『ファーストラヴ』を手に取り読み始めて驚いた。 この作品が大衆文学であること 殺人事件というサスペンスが扱われていること 直木賞受賞作であること これらの事実に。 私が描く島本理生という作家のイメージ、それは、純文学、恋愛小説、芥川賞受賞候補作多数、という文字の羅列だったからだ。 だが、しかし、読み進めていくうちに、紛れもなく島本理生という一人の生身の人間が生み出した、彼女の作品であることに違いないと感じた。 同時に、 こんな書き方も出来

          島本理生/ファーストラヴ

          伊坂幸太郎/逆ソクラテス

          各章少年の視点で語られる連作短編集だ。 とても暖かい筆致で描かれている。 この作品は、 【自分の視座をきちんと持つこと】 【見た目や周りの意見に流されず真実や本質を見抜く力】 が、いかに大切か教えてくれる。 これは、大人の世界でも子供の世界でも共通だ。 ビジネスシーンにおいて SNSの世界において メディアリテラシーという言葉もあるように、マスメディア、ニュースを観るにあたって 人を見た目や職種で判断していないか 力がある人の意見に流されていないか き

          伊坂幸太郎/逆ソクラテス

          島本理生/あられもない祈り

          古典にもなり得る。 序文でそんな予感がした。 あまりに美しいものだから咏かなとさえ思った。 見た目は本だがこの作品は"恋”そのものである。私は今"恋"を抱えている。 から始まる最後の数行を読んだとき、予感は確信に変わった。 育った環境から人は逃れられないのか“あなた”と“私”の物語は、三年前の夏の日、二人一緒に岩場の陰で日の入りを待っているところから始まる。 物語の終盤、“あなた”と行きたかったはずの石垣島で“私”は一人タクシーに乗り込むのだが、その運転手が と突然告

          島本理生/あられもない祈り