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詩たち

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2023年8月の記事一覧

詩「彼の飼育」

詩「彼の飼育」

20230831

誰かが急激に痩せたように見えたのは
少し斜めに立っていたから
錯視に惑わされ 目を擦っても
歪んだ幻想が頭にこびりつく

彼に何かを与えるならば
それは強い酒か煙草であると良い
誤魔化せば世の中 幸せだらけ
つまらない事ばかり見ていられない

誰かが残した札束を数えたのは
嘘でも充実していたいから
その札の価値を 忘れていても
膨大な理想が口から出てゆく

彼に何かを求めるなら

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詩「就活男」

詩「就活男」

20230822

「次の方どうぞ」と言われる前に
ショットガンを構えて突入すれば
頭を狙ってぶっ放す
花が開いて受かるはず

数日後にはお祈りされて
彼の意欲に気付かないまま
次の方になる前に電話をかける
面倒そうに対応される

しっかりとエージェントを付けて
相談してみるが埒が明かない
スタンガンで目を覚ましてみれば
特殊な仕事へと案内される

紅茶を飲みながら日を待ち
時間が近付けば準備をす

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詩「彼はキーケースの中」

詩「彼はキーケースの中」

20230821

キーケースの真ん中にいる彼は
両隣の鍵に挟まれて寝苦しい
いつも不機嫌な二つの鍵は
彼を追い出したくてたまらない

いつも鍵穴に差し込まれるのは
彼の右側にいる鍵なので
退屈な毎日を送っている
(左側の鍵が何の鍵なのかは知らない)

彼をつまんで引っ張り出して遊ぶと
子供達はいつも母親に怒られる
危険なモノになったつもりではないが
菓子の粉や泥に塗れるのは嫌なので丁度良い

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詩「愛おしい夜」

詩「愛おしい夜」

20230820

テレビゲームをやりすぎたのかも知れない
グリッチでキマってしまった道を歩いてライブに向かう
彼の目が誰かを見る時にレベルを測るように
誰かもまた 彼を品定めしている

左右にズレた顔どもの行進
ビルは斜めになって落ちてきそうだ
誰かの車を盗んで走るのも悪くない
それとも 街ゆく人から金を巻き上げるべきか?

(エクレアを頬張りながら冗談混じりで
 他の男と出かけた話をしている太

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詩「街」

詩「街」

20230817

鏡が割れたら終わる世界が
月明かりに照らされている
青白い顔を撫で 冷たく暴かれ
心の居場所はもうわからない

睡魔に酒臭い息を吹きかけられる
アルコールなど遠ざけているのに
いつの間にか夜に酔っ払い
発酵したカーテンが風で揺れる

街はいつも騒がしい
他人事であることが不思議なくらいだ
よく聞こえる声が同じ人のものかも
わからないまま 街を眺める

街は心を隠してしまう
小さ

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詩「怪物」

詩「怪物」

20230819

君らが僕を見て逃げる夢を見た
その目に映る僕は怪物だった
わかっている 間違えてしまったこと
数えきれない罪が僕の上に立つ

それでも 追いかける僕の足が
疲れ果てても たとえ千切れても
君らの前に立てる時まで
何かを追いかける それが君らでなくても

君らが僕を見て笑いかけたとしても
すぐ微笑み返すことが出来ないかも知れない
わかっていた 僕が怪物になったこと
傷付けた分の傷

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詩「たい焼き食べた」

詩「たい焼き食べた」

20230818

コンクリートに打ちつけた頭の中から
こんがりとした たい焼きが出てきた
甘い匂いに釣られて来たたい焼き屋の前
そこらの石につまずいてコケた

遊び疲れてかれた声を懸命に出し
助けを呼んでみた 別に必要なかった
誰も来ないので不貞腐れていると
たい焼きに釣られた野良猫が現れた

「これはお前が吐き出したのか?」
「ああ そうみたいだな」
「やけに美味そうだな 食って良いか?」

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詩「スプレー」

詩「スプレー」

20230818

剥がれかけのステッカーの上に
スプレーを吹きかける
鼻をつんざくにおいにやられ
頭の奥に溜まった汁がはみ出す

その汁が水溜まりを作る
俯いて映し出すスニーカーを見る
動くたび作られる波紋が
飛び散る水滴と一緒に染み込む

色は空気を含んで変化してゆく
線は形となって立体になる
ステッカーの名残まで刻印し
壁はにんまりと笑っている

完成したものを眺めながら
満足そうに休憩をし

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詩「あぶく あぶく」

詩「あぶく あぶく」

20221002

二人の子供がこちらを向いて笑っている
(あぶく あぶく ぷかぷか浮かぶ
 ボートの影を見上げながら)
今晩は美味しいサラダを作ろう

おもちゃを踏んづけた痛みで怒りが湧く
(ゆらゆら 揺れているこの時
 醒めぬ夢のよう アルコールの匂い)
子供たちは笑っている

ソファの位置を変える 気に入らない
(深海からこちらを眺める魚たちの目が
 星のように瞬いている)
子供たちは泣いて

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詩「望む彼」

詩「望む彼」

20230812

隔てた壁の向こう 見えないものを
空想しながら描き続ける
彼の瞳に映る全てのものが
絵となり文となり連なってゆく

ガラスの向こうでサイレンが鳴る
耳を塞いで音楽を聴く
彼は同じ日々を過ごしている
何年経ったのかは忘れてしまった

人々が彼を観て写真を撮る
彼の横顔を笑って通り過ぎる
絵と文が何かを示しているので
それを研究している学者もいる

生まれ変われるとしたら星になろう

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詩「散歩」

詩「散歩」

20230812

新宿駅東南口を降りると喫煙所に向かう
そこにはつまらなそうな顔をした男女がいる
煙で少しフィルターがかかりぼやける
彼は煙草を取り出して火をつける
前はこんなことをせずに済んだと思う
つまらない顔たちがつまらない煙を吐き
ダラダラと死へと近づいてゆく
そしてその中でも
一番つまらない顔をした彼が
一本の煙草を吸い終わる
服を買いにビックカメラへと向かう
ユニクロとのコラボはいつ

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詩「映る炎」

詩「映る炎」

20230807

燃える陽を眺めている
ひたすらに焦がされて立ち尽くしている
汗が流れ落ちる感触がする
疲れ果てた脳内で会議をする

「この後はどうする」
「何もすることはない」
「どこに行けば良い」
「何も求めてはいけない」

燃える火を眺めている
まるで他人事のように灰皿の中
短くなっていく紙巻きの煙草
涼しさではっきりとした脳内が騒がしい

「これまではうまくやってきた」
「そんなことはな

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詩「似合わない幸福」

詩「似合わない幸福」

20230803

誰からも愛されずに
誰も愛さずに済むなら
さようならも言わずに
出会うこともなかったら

この痛みはなかっただろう
痛みに教わることもなかっただろう
楽になるために死を選ぶように
誰とも関わらずに生きてゆけたら

自分を見つめる自分の瞳を
何度も突き刺して仕舞えば良い
何も恐れることはない
傷はすぐに塞がってしまうから

傷跡の多さに絶望する時も
なぞる指をへし折りたくなる時も

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詩「殺風景な部屋の中」

詩「殺風景な部屋の中」

20230803

呼吸に意識を集中させる
瞳を閉じて研ぎ澄まされた時間に触れる
鋭く尖って突き刺さる昨日と
腕を組みながら待つ明日を受け入れる

やる気のない今日は
全身の力を抜いて横たわっている
右目を開いて左目を開く
瞬きが昨日と明日を手招きする

昨日が深くめり込む
明日の吐息が顔に当たる
今日は何もせずにそれを眺める
机の上に置かれた時計が騒ぐ

秒針が不満を垂らす
長針と短針がそれを聞

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