見出し画像

詩「彼はキーケースの中」

20230821

キーケースの真ん中にいる彼は
両隣の鍵に挟まれて寝苦しい
いつも不機嫌な二つの鍵は
彼を追い出したくてたまらない

いつも鍵穴に差し込まれるのは
彼の右側にいる鍵なので
退屈な毎日を送っている
(左側の鍵が何の鍵なのかは知らない)

彼をつまんで引っ張り出して遊ぶと
子供達はいつも母親に怒られる
危険なモノになったつもりではないが
菓子の粉や泥に塗れるのは嫌なので丁度良い

ある日 左側の鍵が右側の鍵と一緒に
彼のことを挟み殺してしまおうとする
しかし なぜかその日に限って外され
彼は玄関にある箱の中に仕舞われる

帰って来た父親が彼を見つけて
「これはもう使わないか?」と聞く
母親は髪をとかしながら
「あなた使う?別に良いわ」と答える

新しいキーケースの中には
必要以上の鍵が並んでいて
彼はやっぱり真ん中に押し込まれ
毎日少しずつ減ってゆくようにぶら下がる

それでも前のキーケースの時より
鍵たちは温厚だったので安心する
今日も 彼は自分が何の鍵だったのか
考えながら一日を過ごしている

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?