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詩「愛おしい夜」

20230820

テレビゲームをやりすぎたのかも知れない
グリッチでキマってしまった道を歩いてライブに向かう
彼の目が誰かを見る時にレベルを測るように
誰かもまた 彼を品定めしている

左右にズレた顔どもの行進
ビルは斜めになって落ちてきそうだ
誰かの車を盗んで走るのも悪くない
それとも 街ゆく人から金を巻き上げるべきか?

(エクレアを頬張りながら冗談混じりで
 他の男と出かけた話をしている太った彼の妻が
 腹に溜めた鬱憤を晴らすために
 グローブを付けて殴りつけるのはいつも彼の腹)

ライブハウスから出てきた瞬間に雨の匂いがした
お気に入りのアーティストが調子に乗らせたので
客たちが流血事件を起こしてしまった
彼はその様子を思い出しながらひとしきり笑う

(チーズケーキの味がする夜の街並みに
 滑って転んだ愛というものが落ちている
 太った妻を抱き抱えることのできない細い腕で
 ラーメンを啜ろうと小汚い店に入る)

愛想の悪い髭面で眼鏡をかけた店員が
愛想の悪い小太りの年老いた店員に小言を吐く
その前に下に落ちた脂を拭き取った方が良い
転んで頭を打つのは時間の問題かも知れない

彼は誰もいないであろう家へと歩いてゆく
途中のコンビニで買った酒を飲み干すとちょうど良い
ネオンカラーに彩られた街並みはいつも彼を歓迎する
全ては幻と同じ セーブデータはいつもカバンの中にある

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