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詩「あぶく あぶく」

20221002

二人の子供がこちらを向いて笑っている
(あぶく あぶく ぷかぷか浮かぶ
 ボートの影を見上げながら)
今晩は美味しいサラダを作ろう

おもちゃを踏んづけた痛みで怒りが湧く
(ゆらゆら 揺れているこの時
 醒めぬ夢のよう アルコールの匂い)
子供たちは笑っている

ソファの位置を変える 気に入らない
(深海からこちらを眺める魚たちの目が
 星のように瞬いている)
子供たちは泣いている

服を着替えて寝る支度をする
(溺れる 聞こえない 見上げるボートは動かない
 あぶく あぶく 形を変えて)
ラジオを付ける 眠気が遠ざかる

朝 忙しく回る時 子供たちの声
(息が出来ない もがいても上がれない
 水中では全てが重い この服でさえ)
子供たちを保育所まで連れて行く

録音したカセットテープの山に埋もれる
(ボートは釣り糸を垂らす
 それを掴もうとしても届かない)
何もする気が起きない

不気味な音を立てる飛行機を窓から見る
(巨大なサメが餌に食いつく
 血だらけの魚が最後に悪態をつく)
ビデオを再生する まだ可愛かった頃の

過去に押し潰され未来を見る目を失う
(子供たちの叫び声が聞こえる
 ボートの上から サメが暴れる ボートが揺れる)
子供たちを迎えに行く 自転車に乗って

二人の子供はこちらを向いて笑っている
(ボートから血が落ちて水と混ざり合う
 あぶく あぶく 何故かとても愉快になる)
頭を抱えたまま身動きが取れない

ガムテープで縛った小さな手を握る
(ボートがバラバラに崩れる
 サメがこちらに向かってくる)
ようやく静かになった部屋でテレビを見る

ソファは深く深く身体を沈ませてゆく
(サメの歯は身体を貫いてバラバラに食い千切り
 その一つ一つに感覚が宿る)
眠い 眠れなかったのが嘘のように

朝 何もすることがない
(サメの胃袋の中で子供たちを抱きしめる
 あぶく あぶく 愛している とても愛している)
夜 何もすることがない

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