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当事者であると明かすことの意味

当事者であると明かすことの意味

小松原織香『当事者は噓をつく』(筑摩書房、2022年) 書名は、「当事者である」と名乗ることによって、「当事者でないかもしれない」という秘密を背負うことによる苦しさに由来している。

 著者は、修復的司法の専門家であり、本書で自身が性暴力被害者であることを公表した。しかし、研究者であり、当事者でもある人は、自分が当事者であることをことさら公にしようとはしない。著者もそのデメリットについて承知してい

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活字を読んで音を聴く

活字を読んで音を聴く

恩田陸『蜜蜂と遠雷(上)(下)』幻冬舎文庫(2019年) 恩田陸は天才だと思う。ホラーの分野では『六番目の小夜子』を、ラブストーリーの分野では『ライオンハート』を上梓し、多様な分野で唯一無二の魅力を発揮している。いろいろな分野に挑戦する偉大な書き手は他にもいるが、その分野で書き続けている作家に比べると見劣りする。だからこそ、恩田陸はすごいのだ。

 本作品は、ピアノコンクールに集う音楽家たちを描い

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キリスト教って何?

キリスト教って何?

はじめに 先日、MARO『上馬キリスト教会ツイッター部の キリスト教って、何なんだ? 本格的すぎる入門書には尻込みしてしまう人のための超入門書』(ダイヤモンド社、2020年)を読了した。

https://www.diamond.co.jp/book/9784478110850.html

 私の身近には、キリスト教徒の人びとが何人かいるが、キリスト教について私はほとんど何も知らないと思って、勉強

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かくも愛しき雑草たち!

かくも愛しき雑草たち!

 稲垣栄洋(三上修・絵)『身近な雑草のゆかいな生き方』(草思社、2006年)を読んだのは、もう6年も前になる。それでも記憶に残っているのは、植物の多様な世界が紹介されていて面白かったからだ。雑草の生き方や暮らしぶりを、擬人化して表現していて、科学的な視点ではないかもしれないが、知れば知るほど人間臭い雑草に親近感を覚えた。

 特に面白く感じた雑草が3種類ある。

コオリユニ 一つはコオリユニで、こ

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在野の情熱、アカデミアの存在意義

在野の情熱、アカデミアの存在意義

 父が定年退職を迎え、セカンドキャリアとして研究の道に興味があるかなと思い、薦めたのが今回紹介する荒木優太編著『在野研究ビギナーズ 勝手にはじめる研究生活』(明石書店、2019年)である。

https://www.akashi.co.jp/book/b472224.html

 本書の対象になっているのは、現役で活躍中の15人の在野研究者たちである。本書では、在野研究を「大学に所属をもたない学問

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マルクスと気候変動問題

マルクスと気候変動問題

斎藤幸平『人新世の「資本論」』集英社新書(2021年) 人新世とは、人類の経済活動が地球を破壊する環境危機の時代を指す。地球ではすでに気候危機が始まっていて、以前の状態に戻れなくなる地点(ポイント・オブ・ノーリターン)がすぐそこまで迫っているという。

 その危機の原因となっているのが資本主義だ。資本主義による収奪の対象は労働力だけでなく、地球環境全体なのだ。しかも環境負荷は外部化されるために、先

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珠玉のツイートから見えてくるもの

珠玉のツイートから見えてくるもの

小田嶋隆『災間の唄』(サイゾー、2020年)
 「災間」とは、東日本大震災からコロナ禍までの間を指している。2011年から2020年までの10年間にコラムニストである著者がツイッターで流したツイートから、武田砂鉄が厳選したものを収録している。
 著者が、その時その時に起こったことに対してや、普段から考えていることについて、鋭いツイートをするのだが、そのほとんどが私には共感できるもので、面白かった。

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