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小説と詩

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小説と詩たまにエッセイ。創作について。ビターテイストな作品が多く、暗闇の中で小さな光を見つけるような話を書きます。 https://amonkoshaku0.booth.pm/
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記事一覧

掌編 詩「偉大な、そして親愛なる詩人へ」

掌編 詩「偉大な、そして親愛なる詩人へ」

あの人はみんなの言葉だった
あの人はみんなのやさしさだった
あの人はみんなのかなしみだった
あの人はみんなの友だった
あの人はみんなの師だった
あの人はみんなの光だった
あの人はみんなの闇だった
あの人はひとりだった
あの人はみんなの愛だった
そしてあの人は、わたしの他人だった
もうあの人をもとめることができない
言葉も
羨望も
涙も
感謝も
きいてくれることもみてくれることも一生叶わない
きいて

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掌編 詩「わたしをとなえる」

掌編 詩「わたしをとなえる」

ごめんなさい
といいながら頬を叩き
ありがとう
といいながら背中を向ける
うれしい
といいながら冷たい涙を流し
ゆるさない
といいながら抱きしめる

人は矛盾ばかりで騙されてばかり
自分でさえ自分を騙すのだから
思い通りにいくはずなんてないじゃないか
写真や鏡を見てごらんなさいとあなたがいった
本物はもとから虚像にまぎれていると
嫌いなものに理由をつけて
好きなものには理由はいらない

わたし わ

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掌編 詩 「雨に誘われて」

掌編 詩 「雨に誘われて」

ぱらぱらと屋根で跳ねる雨音がきこえてきた

次第に雨あしが強くなり

路上を黒く染めあげる

窓にあたる水しぶきが自己を主張するように

庭の木々がよりいっそう艷を増した

ハイビスカスも花葉を広げて鮮やかになっていく

雨音をきけばきくほど

雨色をみればみるほど

世界が静かに澄んでいく

千貫山にけぶる霧が幻想的な頂を映し

その様相は朝靄の海となんら変わらない

わたしは虹の橋が架かるのを

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夏の1コマ「フウセンカズラの戸締まり」

夏の1コマ「フウセンカズラの戸締まり」

#夏の1コマ
「フウセンカズラの戸締まり」

 今年は暑さが続いたのと、台風による雨天も時折あったせいか、フウセンカズラがすくすくと育ちました。青々とした中に早くも茶色く変わりゆくものもあり、今年は成長速度がいつもより前のめりで進んでいるようでした。写真では蔦が小窓まで迫っています。換気のとき、網戸がうまく開かないなぁと思っていたら、外側の網戸にフウセンカズラの蔦が絡まり引っかかっていていました。

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短編「プリン・ア・ラ・モード」

短編「プリン・ア・ラ・モード」

「父親の死体を棄てにいく」参加作品
 幻ノ月音 ( @moon61226676 )

黒田八束さん( @K_yatsuka )による企画、カクヨムのイベントですが、noteに掲載させて頂きました。

※(注意)家庭内暴力に関する表現があります。

「あなたたちのお父さんとお母さんはね、なにもあなたたちが嫌いだから叱るんじゃないんです。あなたたちのことを愛しているから怒るんです」
 私が小学二年生の

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ペーパーウェル12感想

ペーパーウェル12感想

 2024年5月24日〜6月2日まで開催された第12回ペーパーウェルが終了しました。

 今回私は、短歌+写真(青空に咲く満開の藤)にて参加させていただきました。たくさんのダウンロードとコンビニでのネットプリントをありがとうございました。

 短編小説、自作品の番外編、本の書評、そして短歌と写真で参加してきましたが、次回はまた戻って何か文章で参加したいなぁと思います。今回の参加作品は折本が多かった

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文学イベント東京 先行通販開始されました!
私は2作品を委託しています。また6/2(日)に東京の透明書店様で現地開催文学イベントもありますので、お近くの方はぜひ!
https://note.com/heywood/n/nee8f89b10586

ペーパーウェル12配信開始

ペーパーウェル12配信開始

第12回ペーパーウェル に参加します。
今回のテーマは『 空 』!

 「 藤の下陰 」幻ノ月音
 写真+短歌のポストカード

【 コンビニのネットプリント 】
 セブンイレブン予約番号: 35837878
 はがきサイズ1枚カラー60円/白黒20円
 配信終了日時→5/31(23:59)まで
 QRコードでもプリントできます↓

【 データ配信 】
 PDF無料ダウンロード、Boothで配信中。

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ご紹介いただきました!文学イベント東京に委託で参加予定です。よろしくお願いします。
参加サークル:名も無き堂|文学イベント東京(スモール) @agL9HKKaqfnKkV0 #note https://note.com/heywood/n/n76f5fc6bc343

参加サークル:名も無き堂

参加サークル:名も無き堂

文学イベント東京 参加サークル 「名も無き堂」の紹介ページです。

名も無き堂様は普段は読書会を開催し、小説や詩の創作もされています。

■ 「彼女たちの世界は」

同じ専門学校の同期生だった夕星の彼女に憧れ以上の想いを抱き初めていた「わたし」。卒業と同時にその感情ともさよならするはずだったのに、その人が自分のアルバイト先へやってきた!最後の思い出に二人で記念写真を撮ってくれないかとお願いしようと

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掌編 詩「手は口ほどにものを言う」

掌編 詩「手は口ほどにものを言う」

手を繋ぎたいと言ったら、手を振りはらわれた
手を貸そうかと言えば、手出し無用と断られ
手を尽くすように僕は、手短に、手心を加えようとする
それでも彼女は手酷く僕を袖にして、手のひらを返すばかり
どうやっても僕たちは手違いになる
彼女に、手前味噌ばかりで手の内が見えない
手遅れなのだと言われた
彼女を手放したくなくて、僕が思わず手を掴むと
首をしめないでと言われる
怖いこと言わないでくれよ、手首じゃ

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掌編小説 「若人へ」

掌編小説 「若人へ」

 今日は散々な日だった。
 電車で高齢者に席を譲ったら、怪訝な顔で断られ、スーパーで店員さんを呼んだら無表情な顔で指示された。独身だというと可哀想な目で見られるし、一人でいると男が猫なでな声で寄ってくる。
 荷物が重い、歩き疲れて足が痛い。体が弱い親のために、買い物はずっと私がしている。ヤングケアラーという言葉を知ったのは最近だ。切れやすく、感情のまま暴れ、ひとの話を全くきかない。介護や認知症の身

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掌編 詩「風薫る望郷」

掌編 詩「風薫る望郷」

おめでとう
おめでとう
ご祝儀にたくさんの言葉の花束を贈る
おめでとう
おめでと
おめ
声がでなくなった
心が枯れて根が腐る
渇いた土と子種なし花に
なにができるというのか
蓮に憧れたわたしは
泥の中で溺れて消えていく

信じることをやめたとき
わたしを繋ぎ止めたのは
風薫る、寄せてはかえす思い出と
ふたりよりひとりで感じる心地よさ
望郷の愛しさがつのり、目に浮かぶ
刻み込まれた傷痕が疼くとき

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掌編小説「泣き虫の墓標」

掌編小説「泣き虫の墓標」

雪溶け水の泥の中からやっと探しあてたぼくの目玉サイズの小さな石ころ
手触りだけがいいだけのつるりとした丸い石
それを投げてみたらカランカランと空っぽの音がした

猫の額いほどしかないせまいうちの庭に
雪の重さで腰の曲がったナンテンの木が一本ある
お父さんがナンテンの苗を買ってきて
シャベルでサクサク掘ってそこに土をかぶせて植えたんだ
家族のためにって

赤い実が雪の重さにたえかねて
ゆさゆさ揺れて

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