記事一覧
短歌82(好きな男のことも夫のことも諦めたい歌)
「心の花」2024年8月号掲載
建前を積み木のように積み重ね崩すところを見守っている
説明なく連絡手段断たれいて一人を愛せばいい日のシチュー
どちらかといえば怒りでそのあとは胸スッキリと山椒の実噛む
夫でもあなたでもない人といた夜に崩れた芍薬の痕
ゴミとして触れれば花粉もろともに崩れて床を染める芍薬
《洗濯》はタオルを替えることまでを内包すれば布団でなじる
頑なに元気を拒むゴミ回収間
短歌81(夫がいても一人きりな気分な歌)
「心の花」2024年7月号掲載
建前を言うときにだけ揺れているロックグラスの小さい氷
カニクリームコロッケの火傷消えるまで思い出すこと許してほしい
わたしから妻へコトンとシーソーが降りてオイルに大蒜はぜる
設置した巣箱はいつも空っぽでかつて恋した人が目覚める
「この犬の動画観て」って夫へと渡すブロックされてるスマホ
「甘すぎて嫌になっちゃった」とつぶす一つももらってないピノの箱
昆布
短歌80(夏の記録な歌)
「心の花」2024年6月号掲載
あじさいにワゴンの頭突っ込むを覚悟させいる鋭角がある
鮮魚売り場に「夏だね」「いいね」は今日の我が浴衣姿と受け取っておく
熱下がり眠れぬ昼に開けている桃缶少しシロップも飲む
結婚をする前につかれてた嘘思い出してるトマト切りつつ
だいたいでだいたいでねを呪文としビーチサンダルごと足洗う
お師匠と決めて真似する盆踊りの内側の輪は速く遠のく
全
短歌79(浮世離れしているけど子供みたいな男の歌)
「心の花」2024年5月号掲載
聞いたことないけど脳は生み出せる君の鷲鼻抜けたハミング
きみ真似てオレンジジュースを飲んでみる嫌いでなくなっていて嬉しい
詩の言葉わたしより多く知っている君がそれでも選ぶ「好き」の語
君の詩を読み返す また「いい」と思う 書かせるだけのひとがいた過去
私とは出会う前にて結末となる私小説二度は読まない
キッチンに真っ赤なタオルかけてある人は『獄中記
俳句12(石屋の孫娘の句)
令和5年10月〜11月
花蓼や祖父は墓建て暮らしけり
一叢の白粉花や川終わる
立ち話そのきっかけに烏瓜
立ち去れば鯉解散す秋土用
身に入むや荷造りはまず窓を開け
雪迎えここに残していくコンロ
挨拶のある別れなら柚子贈る
埃ごと本詰めてゆく蜜柑箱
病棟のサイクルに沿う日の短か
靴下を脱いで正座の小春かな
院内売店熊手の話聞こえざる
入園料払い枯野を見ていたる
重心を変えれば
俳句11(用水路に落ちたことない人の句)
令和5年9月〜10月
龍淵に潜む砂場の落とし穴
十六夜や隣家のチャイム連打され
ネクタイのペイズリーには秋袷
店畳む報せのその後敬老日
萱を刈る愛を受け取れない日にも
薩摩芋分ける相手のいればこそ
可愛さをオクラに言っていれば無視
死ぬ時に見られるはずの秋の沼
鶺鴒や朝の川には朝の水
ボンテージ新調しても秋意かな
秋の家母は太極拳に行き
マスカット甘さを全肯定されて
果樹
俳句10(転がって移動する人の句)
令和5年6月〜8月
ゴーヤチャンプル躁鬱にして三徹目
花茣蓙やリモコンまでを転がって
蚊を打たぬ人の整えられた眉
寂しさを日常としてアジフライ
口論の度に蓮の葉揺れている
太鼓鳴り偉い人だけいる御祓
一人世帯一人に二尾の舌鮃
米掘ればまた鰻出る土用かな
秋澄むや前髪は掻き上げていて
弟へ貸出中の秋扇
梶の葉でぴとんぴとんと頬を打つ
楽しくもないが嫌でもない墓参
花火持つ君
俳句9(扇風機の風を顔面に当てて寝る人の句)
令和5年4月〜5月
待ってれば来る人を待つアイスティー
夏花摘みみたいに替えるティーバッグ
誰が人の古里ここは麦の秋
老いばかり残されている父に真風
晶子の忌鏡は毎日拭くけれど
とばっちりっぽい理由にて藤嫌う
君よりも噴水に向く心あり
甘酒の瓶に並んで色仕掛け
扇風機だけはわたしのものだから
紫陽花の話題に占拠された街
ただいまと言って裸足であがる部屋
茄子漬やぽてりと人が
俳句8(八つ目鰻じゃない人の句)
令和5年2月〜3月
いまのとこアイアムノット寒八つ目
甘露(アムリタ)が降るのは他所の国どてら
黒服の指示の通りにバレンタイン
佐保姫や出勤順に新衣装
朝寝むにゃゴミ出ししてくれるから好き
伊予柑をぶつけて振り向いてほしい
浴槽の縁に湯をかけ春寒し
えり挿すやモラハラ夫にモラハラす
配信のカーニバルめくチャット欄
若いねと言われる場所へ春日和
春の鴨潜り全然出てこない
脚の