シェア
三叉路で、檜山はわざと右に曲がった。家を出て五分、普通に歩けば約束の時間に充分間に合う…
ゆっくりと傾く地球に合わせて、千夏の肩へ頭を預けようとしたときだった。死や、虹や、愛に…
燈子が大阪を発ってから、一ヶ月と少し経つ。卒業式の翌々日、燈子はフェリーに乗って故郷へ…
窓を見遣る。空はレトロなフィルターをかけたように色が薄く、燈子の写真を彷彿とさせる。三…
「桜って三月に咲くもんやっけ」 「今年がおかしいんよ」 テレビ画面には桜の蕾が映っていた…
この教室はいつも真昼間だ。太陽のような青年、森崎光のまぶしさで、里恵の目はすっかりやら…
湿った部屋の隅で、私は決心する。ベッドの下には酒缶が転がっていて、それから流れ出た甘ったるい液体が水たまりをつくっている。逃げるように目線を移せば、ベランダに散乱している洗濯物が視界に入った。散乱、ごちゃごちゃ、面倒臭い、といったフローチャートが脳内に浮かび、無意識にため息が漏れる。 けれど、私はそれを片付けようとも、掃除しようともしない。 決めたのだ。今日は「なにもしない日」にする、と。 面倒なことはなにもしない。自分がやりたいことだけをする。まず、私はテレビのリ
それが落ちたら、と佑真は切り出した。風もないのに「それ」はゆらゆら揺れている。心臓から…
本当は、もう少し伝えたいことがあった。あなたのこういうところが嫌だった、とか、でも私も…
どうして人は、失わないとその大切さに気付けないのだろう。 「梨々香、久しぶり」 「………
「速報です」 リモコンに触れてすらいないのに、バラエティ番組がニュースに切り替わった。…
私の苗字が変わるかもしれない。 それは好きな人からの将来の約束でもなんでもなく、なん…
明日、私は、退部届を出す。 去年の春、高校に入学して間もない頃、家が隣の幼馴染である…
暗い。 切れかかっている電球の真下が、この部屋でのわたしの定位置だ。灰色の敷き布団の上。大抵は仰向けに寝転んで、邪魔だと蹴られるまでそこを動かない。優吾の足がわたしの体に当たれば、アオムシみたいに少しだけ移動する。それを見た優吾が「気持ち悪い」と呟くまでが、わたしたちの日常だ。 「あ、まって、優吾」 「……なんだよ」 優吾が面倒臭そうに振り向く。わたしはそのぶっきらぼうさにときめいて、分解して、消化する。たまにむせてしまっても、この人はそれを見なかったふりをする。それで