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あやとりりい様 小説

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あやとりりい様の創作作品です。 お時間があれば読んでみて下さいませ。 他のあやとりりい様の小説やNoteの記事も良いので、是非フォローして読んで下さい。 実績のある方です。 こ…
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記事一覧

致死量の悔恨 第1話 かまくらの中

致死量の悔恨 第1話 かまくらの中

あらすじ(300文字)

 左肩に乗る黒い人の様な塊が、啓太郎をかまくらの中に押し込み外界と遮断した。許されない罪が啓太郎を拘束する。啓太郎が生きるために選んだのは自白だった。
 息子が夫の価値観に感染しないよう、自分の檻に入れるため、思わずついた嘘が現実になり桜子を追い詰めていく。
 日頃の鬱憤を声に出さない他人に向けることで発散し、人気者となった夏海が産んだ子供は、人々の怨みを背負った子だった

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致死量の悔恨 第2話 結婚式の前に(上)

致死量の悔恨 第2話 結婚式の前に(上)

一、

真っ白な空を映したかのような花びらが、一斉に開花する。春を待てずに粉雪の中、満開となった。
寵愛を望み、手に入れたために、箱の中に沈んでいった。底なし沼の中に居座ったのが桜子(さくらこ)自身の意思であるのに、空を自由に駆ける桜景色はここから出たいとの希望を掻き立てる。

届いたメッセージが結婚の連絡だったから、桜子は、驚いたとともに、安堵した。こんなに喜ばしい連絡が人から来るのは久しぶりだ

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致死量の悔恨 第3話 結婚式の前に(下)

致死量の悔恨 第3話 結婚式の前に(下)



桜子の胸の奥からは、おばあちゃんとの思い出が、赤い景色の中に湧き上がった。一緒にお好み焼きを焼いたこと。
「桜子は卵をかき混ぜるのが上手ねぇ。」
と、指示をするわけではなく、ただ桜子のやり方を尊重してずっと横で見ていてくれた。
部活帰り、遅い時間になると偶然、スーパーの前で鉢合わせる。
「お味噌が足りなくて。」
と笑うおばあちゃんと一緒に帰ったなぁ。
桜子は、それでも自分がカゴとなり、良太郎

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致死量の悔恨 第4話 息ができない

致死量の悔恨 第4話 息ができない



さざ波を眺めていると、心の中が良いことだけで満たされ、元気ハツラツとしていた自分が過去の者の様に感じる。職場から離れて僅か四ヶ月しか経っていないのに、感じよく働いていた自分は遠い離島に行ったようであった。お腹にいる子供を撫でながら、モヤモヤとした思いを吐き出せない環境を夏海(なつみ)悔しく思った。



「夏海さん、おはようございます。」

いつもの取り巻き達と話すおしゃべりの内容は、苦手

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無念を形に〜致死量の悔恨 あとがき

無念を形に〜致死量の悔恨 あとがき

あの時の出来事は許せない。
ネットニュースを見ていると、そんな事ある?と思うような出来事で溢れている。
やられた方は溜まったものではないなと思う。
小さな一言でさえ傷付くのに、無視、仲間はずれ、ネットへの書き込み。心は見えないから、傷ついた人たちの苦悩は無いものとして、傷つけた人は気に留めず、今日も元気に誰かを傷つける。
……………
人の心は見えない。だから、
思いが伝わらないことは、日常茶飯事で

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アクマのハルカ 第1話 人の大切なものを奪うのは簡単よ

アクマのハルカ 第1話 人の大切なものを奪うのは簡単よ

【あらすじ】300文字
教祖になりたいハルカは、クラスメイトが麻莉亜先生に向ける敬愛や思いやりを自分のものにしたい。そこで麻莉亜が生徒をどう思ってるか、虚偽の出来事を告げ口し、生徒の心を麻莉亜から引き離していく。
麻莉亜が気付きた時には、生徒達の気持ちは身体ごとハルカに取り込まれてしまい、教室には麻莉亜とハルカの2人だけだった。そこで麻莉亜は取り込まれた生徒達を解放するため、自分の思いを伝えていく

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アクマのハルカ 第2話 悪かったと思うのは無欲の本音に触れた時

アクマのハルカ 第2話 悪かったと思うのは無欲の本音に触れた時



 真っ赤な雲が散った。そこはいつも通り香月麻莉亜(こうつき まりあ)が受け持っている3年5組の教室だったが、異なるのは生徒が叶海(かなみ)と奈津美(なつみ)しかいなかったことだ。

 麻莉亜は、この教室にいつも通り居心地の悪さを感じていた。それは心の中に雲があるかのように、モヤモヤするものだった。
 その中でいつも通りの生物の授業を始める。

 「遺伝情報はDNAからRNA、そしてタンパク質

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アクマのハルカ 第3話 友達なんてただの駒でしかないのよ!

アクマのハルカ 第3話 友達なんてただの駒でしかないのよ!



 目の前を覆った赤い雲は香月麻莉亜(こうつき まりあ)の頭上に止まる。麻莉亜は、本能的にそれには触れてはいけないと感じたから視界に入れるに留めた。
 麻莉亜は教壇の下で銃を握り、安熊ハルカ(あくま はるか)を睨むことで、ハルカからの攻撃を防御した体制を崩さない。ハルカは軽く口を開く。 
 「麻莉亜先生、上手くやったわね!見てよ、上。」
 ハルカは一瞬、麻莉亜から目を離し雲の切れ目を指した。そ

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アクマのハルカ 第4話 真実は違うのよ!人を孤立させるために流された噂。

アクマのハルカ 第4話 真実は違うのよ!人を孤立させるために流された噂。



 香月麻莉亜(こうつき まりあ)は紗也佳(さやか)の言葉に身体が膠着し、言葉が出なくなった。怯える麻莉亜を見て微笑んだ紗也佳が恐ろしい。それでも幾度も辞めたいと思いながらも教壇に立ち続けてきた毎日が麻莉亜を救った。その場から逃げることをせず、無意識にチョークを持ったのだ。

 黒板を睨みながら麻莉亜は考えた。ここであの子との経緯を紗也佳に正直に話し、一緒に開放されるべく手を組むことを提案しよ

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アクマのハルカ 第5話 悪意の引き受け手として麻莉亜先生が必要だったのよ。

アクマのハルカ 第5話 悪意の引き受け手として麻莉亜先生が必要だったのよ。


 紗也佳(さやか)の手を掴むことができず、再び安熊ハルカ(あくま はるか)との対峙となったが、香月麻莉亜(こうつき まりあ)は、今度ばかりは攻めの体勢を崩さない。
 左手にしっかりと銃を握り、撃つ時を狙っていた。

 「ほらみて、紗也佳は居ないけど、一美(かずみ)、双葉(ふたば)…十子(とおこ)……一七(かずな)の17人も新たに戻ってきたわ!麻莉亜先生、すごーい!!」
 言葉では、麻莉亜が多く

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アクマのハルカ 第6話 進化にあったのは協力。優越感に浸る為の服従では生き残れないよ。

アクマのハルカ 第6話 進化にあったのは協力。優越感に浸る為の服従では生き残れないよ。



 香月麻莉亜(こうつき まりあ)を取り巻いていた赤い雲は霧のように散り、教壇に立っていた麻莉亜の目の前には真弓(まゆみ)の姿があった。ようこそと言わんばかりのもてなしの心を映した目で、真弓が麻莉亜に微笑んだ。
 「麻莉亜先生、お待ちしてました。」
 真弓はそう言って笑いかけ、最前列の席に着席した。座るなり、
 「麻莉亜先生とあの子のチャット見たよ。麻莉亜先生って本当に面白いね。」
 真弓は口

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アクマのハルカ 第7話 生きにくいのは真実から目を背け、人との対話を避けたから!

アクマのハルカ 第7話 生きにくいのは真実から目を背け、人との対話を避けたから!



 両肘を教壇に付き、上目遣いで香月麻莉亜(こうつき まりあ)を見つめる瞳は、麻莉亜にとっては銃より怖い殺人鬼だった。例え華奢な身体も相まって可愛らしい小悪魔に見えても、目の前でクラスの生徒たちをどんどん取り込んでいったのだから。
しかしこの子に取り込まれたはずの生徒たちが今、麻莉亜の目の前にいる。

 なぜ?

 麻莉亜は、生徒1人1人の顔を見る。叶海(かなみ)、奈津美(なつみ)、紗也佳(さ

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アクマのハルカ 第8話 もう悪魔にならないで!それよりも自分の人生を生きて欲しい

アクマのハルカ 第8話 もう悪魔にならないで!それよりも自分の人生を生きて欲しい


 香月麻莉亜(こうつき まりあ)が立っていた教室には赤い雲が消え、左足にしっかりとコードバンの靴を履いていた。ストッキングに傷みはなく、左手には拳銃ではなく、チョークを握っている。
 ただここの教室には、悪魔悠(あくま はるか)が居なかったから、麻莉亜はとっさに誰にというわけではなく、生徒たち全員に聞いた。
 「悪魔悠は?」
と。回答したのは真弓(まゆみ)で、
 「空間(あくま)は私で、悠ちゃ

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アクマのハルカ エピローグ 生物教師として残したいものがある。

アクマのハルカ エピローグ 生物教師として残したいものがある。



 暑い。盆地は熱が籠もると聞いてはいたものの、ここは恰も蒸し風呂の様で、たまに吹く風はロウリュウの様に全身を汗だくにする。「盆地、見くびっていたわ。」と香月麻莉亜(こうつき まりあ)は思った。

 都心から約1時間、新しい赴任地はやっぱり女子高だった。
 あちこちの大学から助教授の座で来て欲しいと誘われたものの、麻莉亜は生物の先生でいたかったから、心置きなくお断りした。



 テープ起こ

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