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良かった小説

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小説や漫画の中で話が長いものを読むのが苦手。 そんな私が夢中で読めた小説を載せていきます。 最高でした。もっと気持ちは熱くなっているのですが、表現が上手くできません。つまり、とに…
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#短編小説

【短編】 シンフォニーおじいさん

【短編】 シンフォニーおじいさん

町の片隅にある、メタセコイヤがそびえ立つ大きな公園に、ひとりの老紳士がやってきた。

歳のころは80歳を過ぎているだろうか。

薄い白髪に丸いメガネ、そして古びた背広を着て、背中を少し丸めたその姿は、一見するとどこにでもいそうな普通のおじいさんだ。
しかし、このおじいさんにはある特別な特徴があった。それは、彼が毎日、公園で“シンフォニー”を演奏するということだ。

もっとも、この演奏は楽器を使うも

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【掌編小説】彼女の選んだ未来

【掌編小説】彼女の選んだ未来

1.未来が見える人

 アメリカ合衆国初の女性大統領になったアリサ・マックウェルは、幼い頃から未来が見えていた。
 日本人の母とアメリカ人の父のもとに生まれ、ボストンで育ったアリサは、よくフリーズしたように立ち止まって、ブラウンの瞳でどこか遠くをじっと見つめる少女だった。
 親も周りの人たちも、彼女がなぜそうするのか不思議だったが、アリサは自分の予知力について誰にも話さなかった。親に打ち明けようと

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春と風林火山号に乗って #短編小説

春と風林火山号に乗って #短編小説



 とうとうこの日がやってきた。
 直紀は抑えきれぬ想いを胸に、帳面駅バス停に到着した。駅前の掲示板に貼られた一枚のポスターに目をやる。
   春と風林火山号に乗って新宿に行こう!
 弾けるような文字が躍り、そこにはバス乗務員の制服を着た女の子のキャラクターが描かれていた。何度見ても、溌剌とした明るい笑顔が可愛いらしい。
 直紀はこれまで、こういった萌え系のキャラクターには全く興味がなかった。

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【短編小説】ニシヘヒガシヘ~夜行バスに乗って~ 第1話

【短編小説】ニシヘヒガシヘ~夜行バスに乗って~ 第1話

   第1話

21:00 帳面駅バス停 出発

「本日はご乗車いただき、まことにありがとうございます。こちらの夜行バス『風林火山号』は帳面駅発、バスタ新宿行きでございます」

 帳面駅前ロータリーの一角にある路線バスの発着場は、帰路につく人たちが列を作っている。

 それとは反対側の端に停車する鮮やかなデザインのバスに近づき、入り口の前で足を止めた。バス停に立つ制服姿の女性にチケットを見せる。

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【短編】ビタースウィート、或いは紅蓮。⑤

【短編】ビタースウィート、或いは紅蓮。⑤

チョコレートの包み紙を渡してきた奴がいてよ。その時に俺は感動したんだ。

恍惚とした表情で、《物乞い》は語り始めた。

「銀行員をやっていると、いわゆる『金の亡者』とも言える客に出会う。金は金を増やすための手段であり、金を増やす目的もまた金である。そんな連中だ。俺は投資を担当していたからな、そういう客との遭遇率は高かった。そんな奴らの相手をしていると、次第に感化されちまうんだよ。この世の中のものは

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短編小説:いぬの本懐

短編小説:いぬの本懐

田舎の古い家というのは冬の雪の湿気や重みで真夜中、ひとがみな寝静まって、目の前に犬の鼻があっても少しもわからないまっくらやみの時間に

「…ミシッ」

なんて不穏な音を立てることがある、それから屋根裏を鼬が鼠を追いかけてバタバタ駆け回って、天井板からはらはらとホコリが降ってくるくらい騒がしいなんてことも。おれは森の中にある古くて大きな家で生まれて、この家に来るまでそこでおれのお母さんときょうだい達

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346

346

「69  70   71  72  73  74  75  76  77  78 …」

ラップタイムを大声で読み上げる彼女はしかし、ジャージが似合わない。スラリと背が高く、艶々したショートボブで、風になびく髪をサラッとかきあげる様は、私がカメラマンなら夢中でシャッターをきっている。

そんなモデルのような陸上部のマネージャーに一目惚れをした。中学からやっていたバスケ(膝をオスグッドにしてまでのめ

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短編小説 | Message~私はあなたを許す~

短編小説 | Message~私はあなたを許す~

どこかの、やさしい、だれかは
わかっているよ。

あなたが、こどもをあいせなくて
くるしんだこと。
そのことを、だれにも、うちあけられずに
くるしんだこと。

こどもから、にげるように
トイレにこもったこと。
SNSにいぞんして、げんじつから
にげていたこと。

ゆうがた、なきさけぶ、こどものこえに
みみをふさいで、ないたこと。

こどもの、ねがおに
なきながらあやまった、ひび。

どこかの、だれ

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