きなこ

はじめまして。野生の一人文芸部です。この物語はフィクションかもしれないしそうでもないかもしれません。 お仕事のご用命はTwitterのDM。もしくは此方の方までお願いいたします。⇨https://note.com/6016/message

きなこ

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マガジン

  • 1年生日記

    医療的ケア児付き添い登校の記録。

  • 1年生に、なれるかな。

    うちの末っ子、心疾患児であり医療的ケア児の就学の記録です。

  • 小説:グリルしらとり

    東京の小さな洋食屋を舞台に、ひとりの男の子の周りにいる人々のことを書きます。優しい物語を『グリルしらとり』のメニューを題名にして10篇ほどかけるといいなと思います。

  • 小説『みらいを、待ってる』

    コンテストに一応応募したものの箸にも棒にも引っかからなかったものを、さらに引き延ばして書いたものです。お焚き上げのような。

  • 短編集:詩を書く

    短歌や詩を下敷きにして小説を書きました。1つのものが1万字を上限にしています、ちょっと気の向いた時によめるものをこつこつ書いてここに置いておきます。あなたの気の向いた時に気軽に自由に手にとってくださると書いている人間は喜びます。

最近の記事

三時間目

前回のあらすじ、というか最近の6歳の説明として うちの六歳は長い夏が終わりやっと秋らしくなったなぁと思ったらたちまち冬がきて十一月、六歳は元気すぎるくらい元気な同級生の揃う教室の『大きな音』が怖いと、学校に行き渋るようになり、朝起きて、朝食を食べて着替え、さあじゃあ学校に行きましょうかという段になってから玄関で座り込み 「行きたくない」 「いや行こうや」 「行かない」 「断言か」 という母子の攻防が続いている。 これが幼稚園児の頃なら抱っこしてなんとか、ということもで

    • 潜在的不登校

      文部科学省の調査によると、2023年度の小中学校における不登校児童生徒数は過去最多の34万6482人であるらしい。 このニュースを目にしたわたしがまず考えたことは「不登校の定義というのは一体なんやねん」ということだった。質的調査を伴わない数値的調査がなされているということは、そこには不登校児の定義があるということのはず。ですよね? それを探るべくアマゾンの奥地になんて行かなくても、定義はちゃんと文部科学省のホームページに記載されていた。そしてこの「アマゾンの奥地」の元ネタ

      • やや不調。

        生物学上女の体を生きていると、一生の中で何度か身体の大幅なメタモルフォーゼを経験することがある。 既に経験したものでいうと、思春期と妊娠期。 前者は大体の女の人が経験するもので、後者は妊娠をすることを、確固とした意志を持って臨んだ場合と、偶発的に発生した場合があるのだけれど、とにかくそれが起きて継続することを選択した場合とにかく体調が悪くなる。入院してしまう人もあるくらいに。 身体が成長し成熟してゆくことは、生物としては正しいことだし。繁殖も生物としてはまっとうな、そし

        • 反芻動物園

          十月の連休に、天王寺動物園に行った。とても楽しかった。 天王寺動物園は大阪市天王寺区の天王寺公園の中にある動物園で、大正4開園。日本に現存する動物園の中では3番目に長い歴史を持つらしい。傍から見ると動物園というよりも、大阪のど真ん中に突如出現した深い森という風情のそこは敷地面積約11ヘクタール、そこに約200種1000匹の動物が飼育されている。 そこには2か所入り口があって、新世界側の入り口から入場するとそこに通天閣が見える。明治45年竣工、昭和18年に階下の映画館の火災

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        • 1年生日記
          9本
        • 1年生に、なれるかな。
          9本
        • 小説:グリルしらとり
          5本
        • 小説『みらいを、待ってる』
          4本
        • 短編集:詩を書く
          6本
        • 短編小説集:春愁町
          5本

        記事

          短編小説:どんじり

          蒔絵が結婚することになった。 蒔絵というのは僕の姉だ。僕よりひとつ上の今年三十一歳。 普段は幼稚園教諭をしている、僕らきょうだいの育った街の丘の上にある学校法人さくらのてんし幼稚園、今はさくらのてんしこども園という名前になったらしいが、短大を卒業してからそこでずっと働いている。去年勤続十年で最初の「勤続十年賞」を貰った。 中高とバスケ部だった蒔絵は背が高く、手足が長く、弟の自分には一体その容姿がうつくしいのかそうでないのか、ちょっと判断がつきかねるが、僕の周囲の人達に言

          短編小説:どんじり

          いとこ顔

          わかりやすく誰かに似ているという訳でもないのだけれど、何となく自分のまわりの誰かに似ている。 そういう容姿というか顔面を「イトコ顔」と言うらしい、親戚にかならずひとりはいそうな、そんな顔。 それはまさに私の顔のことだ。 かつて初対面の人から「あたしのイトコに似てる」と言われたことが何度もあるし、道で会った全く知らないおばあちゃんに「さっちゃん!あんた今まで一体どうしてたん」といきなり抱き着かれたこともある。勿論私はさっちゃんじゃないし、なんだか事情もありそうだったので「

          いとこ顔

          小説:タイヨウの家

          母は、ノックをしないで部屋に入って来る。 「なんですかァ、時生さんは大学を辞めはったんですかァ?」 そしてドアを開けた瞬間、手に持った十年来の相棒である掃除機のスイッチをブォンと入れ、ついでに「大学辞めたんか?」と聞いた。 「…そんなことない、三講目からやし」 「フーン、おかあさん未だにようわからんのやけど、学校って朝から行くもんちゃうの?隣の美里ちゃんは毎日朝から行かはるやん」 「美里ちゃんは、高校生やからや」 「ええ?だってあの子毎日私服で出掛けはるで」 「美里ちゃ

          小説:タイヨウの家

          フィールドワーク

          うちの末っ子の6歳は現在小学1年生で、心臓に病気があって、医療用酸素を使い、学校には専従の看護師さんが来てくれている。そういうタイプの子どもで、地域の公立小学校の1年生の教室と特別支援教室、ここでは仮に『ひまわり教室』と呼ぶけれど、そこを行き来しながら過ごしている。 特別支援教室は上記ように定義づけられているものの、運営方法や方針は地域によってそれぞれの独自色が強い印象がある。6歳の暮らす地域の教育委員会では (できるだけすべての子どもを普通級で、他の子ども達と一緒に)

          フィールドワーク

          失せ物。

          うちの一番上の息子は、見た目も性格も趣味嗜好も、どこを取っても私に少しも似ていない。 数学が得意で、グロタンディーク素数を含む素数を愛し、トリビア・クイズが大好きで、高校生の男の子の割に食が細く(中学生の妹より食べない)、かなりの偏食であり、いいヤツなのだけれど、他人の心の機微にやや疎い。 今年の冬、受験シーズンの真っただ中の2月、この人がまずは1校目の受験校である私立高校を受験した時、国語の試験で源氏物語の第九帖「葵」が出典の問題が出た。そこで息子は六条の御息所がどうし

          失せ物。

          短編小説:さよなら7

          空が透明に晴れた日曜日、あたしはナナと電車に乗っていた。 普段あたしは一切外出しない、それは生活のすべてが家の中で完結するからで、かつあたしは、外の世界があんまり好きじゃないからだ。 いつもならナナが何を言おうが、「イヤや、行かへん」とあたしが言えば、大体ちょっと不満そうな顔をしてから「こんないいお天気やのに」なんてぶつぶつ言いながらナナは一人で出掛けて行く。あたしはこの「あんたがひとりで行けばええやん」の表情と仕草で、鶴見緑地へのピクニックも、北梅田に新しくできた公園へ

          短編小説:さよなら7

          2学期。

          2学期が始まった。 夏休みを終えた小学1年生は、学校に「いかへん」と泣いたりすることもなく、毎日母の私を従えて電動車椅子で意気揚々、学校に通っているのだけれど、小児用の車椅子って小さいので、背もたれに酸素ボンベを引っかけただけで積載量が限度いっぱいになる。お陰で1年生になる孫にと私の母が買ってくれたランドセルは私が背負っている、46歳なのに。 ヒッチキャリアが欲しい、あのランドクルーザーとかの、四駆のお尻にくっつけて荷物を運べる格好いいアレ。 それはおいおい考えるとして

          2学期。

          プロの本懐

          例えば「お母さんなんだから」という大雑把すぎる括りで、己のありようを限定されるのは個人的に好ましくない。そもそも「母親らしさ」というものは大抵封建的な家制度に深く結びついているもので、そういうものを私はあまり好きじゃない。 仮に人から「母親らしく」に類することを言われて、そうして己の行動や思考を制限されるようなことがあるとしたら、スリッパ片手に地の果てまで執拗に発言者を追いかけたる、くらいの気持ちはあるけれどやらない。だって足がものすごく遅いから。 だから私も、性別や年齢

          プロの本懐

          短編小説:夏からの手紙

          河川敷のグラウンドの奥、セイタカアワダチソウをかき分けてボールを探しに行くと、そこはとても青臭くて、口の中にも苦い味が広がるような気がしたものだ。僕はボール探しが酷く嫌だったけれど、僕とバッテリーを組んでいた圭ちゃんは違った。   「そういうのも、キャッチャーの仕事やし」   そう言って草むらの中に飛び込んでいく圭ちゃんは、小学五年生の夏まで僕の親友だった。   *   ポストの中の無記名の茶封筒に気が付いたのは月曜の朝だった。そこには切手も貼られていなければ住所も差出人もな

          短編小説:夏からの手紙

          短編小説:新淀川橋梁

          それは、阪急十三駅を降りて商店街の本通りを一本入った路地にある小さな居酒屋だった。 一階がカウンター席だけのごく小さな店内は、奥にある矢鱈と急な階段を上がると六畳間の客席がある、常連客はそこを「座敷」と呼んでいた。座敷には折り畳み式の古い座卓が置かれていて、窓辺の半畳程の板の間には、高く積まれた座布団と、その隣にガラスケース式の冷蔵庫があった。客はそこから、瓶ビールや日本酒を勝手に取って飲む 「これ絶対、ごまかす人がいると思うけど」 僕がそう言うと、店の主のひとりである

          短編小説:新淀川橋梁

          盆日記

          8月13日(火)  今日の最高気温を聞くだけで、どこにも行きたくないお盆1日目。 お盆、盂蘭盆会、盆会、精霊会、魂祭、歓喜会、さまざまに呼び名のあるこの行事、大まかにいうと「お盆になったらご先祖さんが、帰ってきはるので、みんなでお迎えしましょう」ということだけど、これ、灌仏会とか涅槃会なんかの仏教行事とはちょっと違って、祖先祭祀と仏教が融合した地域色強めのハイブリッド行事らしい、そう思えばお盆て、地域ごとに全然違うことしてたりするなと、今更気が付く46歳。 ところでお盆

          盆日記

          魔女、旅に出る。

          六歳年が離れているねぇねのお誕生日が近づいてきたここ数日、末っ子である六歳はなんだかそわそわしていた。 「お誕生日のごちそうは何をするの」 「ケーキはどこで買うの?」 「ケーキはチョコがいいんじゃない?(※六歳はフルーツのケーキが苦手)」 「あたし、ねぇねにプレゼントあげたいなー」 自分の上に九歳も年上の高校生の兄と、六歳年上の中学生の姉を持つ六歳はつい最近まで 『お誕生日には、ちゃんと持ち主がいる』 ということを知らなかった。だからいつも上の2人のお誕生日には自分も

          魔女、旅に出る。