📖『「仕方ない」は全部きみのせい。』

聞いてよ。
俺の恋人はさ、本当は恋人なんて誰でも良かったみたいなんだよ。

それは、仕方ないね。

家族がさ、暇なくせに、家の事をなんにも手伝ってくれないんだぜ。

それは、仕方ないね。

ありがとうすら、言わないんだぜ。

それは、仕方ないね。

介護まで、俺がやってんだぜ。

それは、仕方ないね。

あんた、さっきからなんなんだよ。
仕方ないしか言わないじゃないか。
サルの一つ覚えじゃないんだから、少しは関心をもってくんないかな。
俺は家で買い出しから介護から何から全部やって、仕事にも行って、恋人や恋人の家族からの我儘にも応えてる、なのに。
俺は家族の中にも、大切だと思っていた恋人の心の中にも、居場所なんかないんだぜ。

知ってるよ。

じゃあ何か仕方ない以外のことを言えよ。

言えないよ。

なんで。

だって君、この間言ったじゃないか。
「俺の人生は仕方ないんだ」って。

そりゃそうだろ。俺以外にやる奴なんかいないんだから。

じゃあ、逃げてしまえばいいじゃないか。

そんなわけにはいかないだろ。
俺だって1回は逃げたさ。恋人と幸せになるためにね。
だけど運命が俺を逃げ切らせてくれなかった。
それはあんたも知っているだろ？
おまけに恋人にプロポーズしたら両家から大バッシングさ。
どんだけ応えても認めてくれない。
ほらな？
俺は何も欲しいものを手に入れられないんだ。
なのに家族からも恋人からも離してもらえないんだ。
だから俺の人生は仕方ないんだ。

君はふてくされているんだよ。

ふてくされてなんかいないさ。
手は尽くしたと言っているだろ。

「仕方ない」で、これからも君は生きていくのかい？

そうだ。
仕方ないことはもう仕方ないんだ。
その代わり、俺と恋人はそれぞれの家族と縁を切って2人で幸せになってやるんだ。

その恋人は、君との結婚を『仕方ない』から受け入れたんだろう？

そうかもしれない。
でも妥協で手にした幸せで生きていくことなんて、よくあることだろ。
恋人にしたって、それはそれで恋人の決断だろ。

『仕方ない』で生きていたら、『仕方ない』で生きている人としか出会えないのは当たり前だよ。

何が言いたいんだ？

君の心はあまりにも暗くて窮屈なんだよ。
決断というけれど、君は何一つとして決めてなんかいない。
『仕方ない』という言葉に任せて、思考停止しているんだよ。
愛されたい、寂しい気持ちでいっぱいなら、素直に求めればいい。
君は家族や恋人思いで優しい青年でも、可哀そうな青年でもない。
人のせいにばかりする、嘘つきで馬鹿な卑怯者さ。

そんなこと、余計なお世話だ。
なぁ、あともう少しで幸せになれそうなんだよ。
お願いだから邪魔しないでくれよ。
話にならない奴とは関わりたくないんだ。

僕なら、君を自由にしてあげられるよ。
君が望むままに。

話聞けよ。俺は今恋人と幸せな未来のために必死なんだ。
そのために母親でさえ捨てたんだ。
それが俺の望みなんだ。
あんたなんかがいなくたって、俺は俺の望むままに生きていけるよ。
馬鹿にしてんのもいい加減にしてくれよ。

僕は待つよ。君がどれだけ長く頑なになっていても。
だって僕は…。

君自身なんだから。