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花に嵐の映画もあるぞ(邦画編)。

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わたしの好きな映画を、「褒めること」意識してつらつら書いていきます。 取り上げる映画は、時にニッチだったり、一昔前だったりしますが、 そこは「古いやつでござんす」と許して、ご容赦…
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2020年2月の記事一覧

二度目の人生は異世界で・・・は夢と潰える。ショーン・コネリーas「王になろうとした男」。

こんな時代だからこそ、せめて夢の中くらいは非日常を冒険していたい。 例えば昨今流行の「異世界転生もの」など、いかがだろうか。 異世界転生ものが大好きな方にも、そうでない方にもご紹介しよう、 ショーン・コネリー as 「王になろうとした男」 1972年の洋画。邦題は、原題「The Man Who Would Be King」を忠実に日本語訳したもの。「小説家になろう」とは無関係。中身が異世界転生もののテンプレであるのは、否定できないが。 原作は「ジャングル・ブック」で著名な英

アクション、アメリカン・ライフ、マイホームパパ、おやじの背中。マックイーンの「ハンター」。

うんざりするほどの曇天が覆いかぶさる時代だからこそ、頭を空っぽにして観れる能天気なアクション映画が、無性に恋しくなる。それも、ただの銃撃戦だけで終始しない、ダイナミックなアクロバットが拝める作品が。 だからマッドマックスがいい。007がいい。ワイスピがいい。トリプルXがいい。 この週末、どうせ観るのなら、1980年公開の本作はいかがだろうか。「大脱走」のスティーブ・マックイーン、最後の捕物帖。97分でさくっと観れる。 ※以下、あらすじ紹介の後に、親父の背中もとい本作のレ

崔洋一「犬、走る DOG RACE」_世紀末、歌舞伎町に生きる怠惰なふたり。

井筒和幸が8年ぶりの新作を公開する、と風の噂に聴いた。 「久しぶりだね」の一言。 ゼロ年代までが彼の黄金期。私が中坊だった頃、彼の作品である「パッチギ!」「ゲロッパ!」を話題となっていたものだ。いつのまにか干されてしまったようだが。 翻って。2009年の「カムイ外伝」以降、ずっと干されっぱなしの崔洋一の行方が心配だ。…いや、干されたつながり(&角川映画でメジャーに躍り出たという共通項)で想起しただけなのだが。 真面目な話、崔洋一ってどんな監督?崔洋一。 この人の作風を見

這い上がれないロッキー・バルボア=中年レスラー、ランディ。それが「レスラー」

2020年1月5日、私は 新日本プロレスの年一番のお祭り:イッテンゴを、東京ドームへ観に行った。 目当ては、獣神サンダー・ライガー選手の引退試合だ。 ライガー選手は 老獪なグラウンドの攻防や、弓矢固め→ロメロスペシャルへのつなぎなど 「攻めのテクニック」を後輩レスラーに伝授したのち、 後半からは、進化著しい二人の後輩からありとあらゆる攻めを受けに受けて 最後は、高橋ヒロム 選手に、引導を渡された。 拍手と歓呼の中を、試合後のライガーは悠々と立ち去って行った。 2階スタンド

屍者たちと共にいるところ。そこが、映画「ゾンビ・リミット」。

いま、夢中で読んでいる新書がある。「感染症と文明」。 感染症と人類の戦いの歴史を、太古から現代まで遡って記し 「感染症と人類は共生せざるをえない運命にある。それは理想的な均衡ではなく、心地よいとはいえない妥協の産物である」と結論づける。 翻って、「パンデミック」と結びつけられやすい、ゾンビもののことを思う。 ゾンビものでは、ゾンビへ「感染した」人間に対し、どのような対処を行うかが、主題となる。 大体において、生きとし生ける全ての人間と、死にせし屍人:ゾンビとは相容れない関

キャッチミーイフユーキャンなボリウッド「パドマーワト 女神の誕生」

2018年に大ヒットした「バーフバリ 王の凱旋」の勢いに、明らかに便乗して 昨年、ひっそりと公開されたボリウッド製スペクタクル史劇が、本作だ。 大掛かりなセット、アクロバティックなアクション、厳かで壮大な悲劇。 見終えた暁には、重い気分が込み上げてくる。(父バーフバリの末路、そして最期と同様に!) 16世紀に生み出されたインド古来の伝記:パドマーワトに描かれた愛と誇りの物語が、500年の時を超えて、インド映画史上最大級の製作費を費やした究極の映像美で蘇る! 13世紀末、シン

まるで夢のない宇宙旅行。それが「アド・アストラ」。

「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」が巷を賑わすのと同じ頃、ひっそりと公開され、ひっそりと公開終了したブラピ主演のSF映画だ。 これはガンダムでいう「宇宙世紀」。人類が地球上での戦いを宇宙にも持ち込んでいる時代。だから、宇宙を旅するワクワク、ドキドキを期待してはいけない。SF映画の本家ハリウッドが、醒めた目線で、宇宙への夢を語りなおす。 近い未来。ロイは地球外知的生命体の探求に人生を捧げた父を見て育ち、自身も同じ道を選ぶ。しかし、その父は探索に旅立ってから16

追憶の映画「その後の仁義なき戦い」…滅びゆくものの為に。

「仁義なき戦い」という金字塔がある。 深作欣二監督、菅原文太主演の全5作。 あらすじをひとことで言えば 第一作の「野良犬」たちが権謀術数に長けた大幹部に成長、腹の探り合い、電話での駆け引きをしているうち、かつての自分たちのような若者らが跳ね上がり犬死する諧謔的な群像劇 「映画の奈落: 北陸代理戦争事件」伊藤彰彦・著(国書刊行会)より引用 エポックメイキング。 東映に実録ヤクザ映画ブームを起こし、(それは後のVシネマにつながる系譜) かつては東映によって秘蔵っ子扱いされてい

いちどは行ってみたくなるcathédraleの点景。それが「もしも建物が話せたら」。

タイトルそのままの内容をした、長編ドキュメンタリー映画だ。 時代の波にさらされた建物たちに、自らをモノローグで語らせてみせる趣向。 ベルリン・フィルハーモニーは、ベルリン分断の歴史を語る。 ロシア国立図書館は、政治の波に晒されながら本を護り続けた意義を告白する。 ハルデン刑務所は、必罰の風潮に否を唱え、新しい時代の刑罰を提起する。 ソーク研究所は多くを語らない:ポーズを取るだけ、美貌を魅せるのみ。 等等、名刺の出し方は個性様々。 本作において自らを語った6つの建物の中で い

若松孝二の「餌食」_俺は、弾をこめて、レゲエを撃つ。

Amazon Prime Videoで一時期「JUNK FILM by TOEI」に加入していた。 本チャンネルで見られる作品の大半は、「女番長」や「不良番長」や「異常性愛路線」他もろもろデタラメばかりなのだが、玉石混交と言うべきか、なかには拾い物もあって。 1979年公開 若松孝二監督、内田裕也主演の「餌食」など、その最もたる例だと思う。もう40年前の映画だが、今に通じる強いメッセージ性を持っているのだ。 内田裕也扮するアメリカ帰りのロック歌手がレゲエに魅了され、日本

邦画「そこのみて光輝く」_ 最後、ひかりのあめ、抱きしめて。

「私にとって良い映画は、泣ける映画なんです。泣くということは、感情が揺さぶられたということ。だから、時間が経っても残る。でも、涙が出るためには、笑わなきゃいけないんですよ。笑うからこそ泣けるんだし、泣くからこそ笑える。」 「映画監督への道: 40人が語る監督になるための発想と技法」誠文堂新光社 (2014/3/20) 33ページから引用  監督の狙い通りに、やられた。 ちょうど就活を終えて、ほっとして、心をしばってた紐が緩んでいた頃。 **たまたま映画館で観て、そして激し

野球ってなあに?答えは「ダイナマイトどんどん」。

戦前まで、日本では、野球は「学生の趣味」であるとの考えが一般的だった。 日本での野球熱が大人の間でも高まったのは、戦後のGHQの政策のおかげ。全国に野球文化の新しい波が押し寄せた。 本作は、よりにもよって野球の「や」の字も知らない 「や」の字のつく人種た ちが、訳もわからぬまま野球に挑んだ、そんな微笑ましい時代を描いたコメディだ。監督・岡本喜八×主演・菅原文太 の異色の顔合わせ。 昭和25年、九州小倉では昔かたぎの岡源組と新興ヤクザの橋伝組が縄張りをめぐってしのぎをけずっ

1962年金獅子賞受賞「僕の村は戦場だった」。 最後の眼差し、忘れられない。

ロシアを代表する映画監督:アンドレイ・タルコフスキー(1932年〜1986年)のキャリアは、戦争映画から始まった。 元々この映画は別の監督の手で製作が進んでいたが、中座していたもの。タルコフスキーはそれを引き継いだこととなる。 いわば、会社(当時所属のモスフィルム )から押し付けられた企画なのだが、この演出でタルコフスキーはその天賦の才を発揮することとなった。 じっさい、実質的なこの処女作において、タルコフスキーは1962年のヴェネツィア国際映画祭にて金獅子賞を受賞すること

些細なすれ違いから炎上する。スパイク・リーが「ドゥ・ザ・ライト・シング」を撮った訳。

2018年に「ブラック・クランズマン」を全米公開し 同年の第71回カンヌ国際映画祭や第91回アカデミー賞を賑わした スパイク・リー監督の映画は、とにかく消費カロリーが凄まじい。 マルコムXとかKKK団とか、ラディカルなテーマばかり取り上げる。 登場人物が自身の憎しみや怒りを躊躇うことなく発散する。 その一方で、演出は正攻法で冷静。ここがミソ。 だから、時に清々しさすら感じさせる程の、透明感が存在する。 ここでいう正攻法とは? それを彼の初期作「ドゥ・ザ・ライト・シング」から