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キャッチミーイフユーキャンなボリウッド「パドマーワト 女神の誕生」
2018年に大ヒットした「バーフバリ 王の凱旋」の勢いに、明らかに便乗して
昨年、ひっそりと公開されたボリウッド製スペクタクル史劇が、本作だ。
大掛かりなセット、アクロバティックなアクション、厳かで壮大な悲劇。
見終えた暁には、重い気分が込み上げてくる。(父バーフバリの末路、そして最期と同様に!)
16世紀に生み出されたインド古来の伝記:パドマーワトに描かれた愛と誇りの物語が、500年の時を超えて、インド映画史上最大級の製作費を費やした究極の映像美で蘇る! 13世紀末、シンガール王国の王女、パドマーワティ(ディーピカー・パードゥコーン)は、西インドの小国、メーワール王国の王、ラタン・シン(シャーヒド・カプール)と恋に落ち妃となった。同じころ、北インドでは、叔父のジャラーウッディーン(ラザ・ムラッド)を暗殺した若き武将、アラーウッディーン(ランヴィール・シン)が、イスラム教国の皇帝(スルタン)の座を手に入れていた。
獰猛で野心に満ちた彼は、第二のアレキサンダー大王との異名を持つほどに、その権勢を広げていく中、絶世の美女、パドマーワティの噂をききつけ、メーワール国に兵を差し向けるが、堅牢な城壁と、誇り高いラージプート族の王であるラタン・シンの抵抗により、パドマーワティの姿を見ることも許されなかった。
一計を案じたアラーウッディーンは、ラタン・シンを拉致してパドマーワティを自らの城におびき寄せるが、彼女の勇気ある救出策によりラタン・シンは奪い返され、遂に総力をメーワール王国に向かわせる。
城を取り囲むアラーウッディーンの大軍勢と睨みあうメーワール王国の兵士たち。やがて始まる、王と王の誇りと野望を懸けた最後の戦い。
そして、圧倒的に不利なその戦に、パドマーワティは、ある決意をもって臨んでいた…
暴王の気分になってみる。
本作のヴィランであるサルタン、アラーウッディーン。
騎馬兵主体の圧倒的な軍勢を率いる軍人皇帝。無慈悲で、残忍で、平気で人を殺し、猜疑心が強く、所有欲・権力欲が強い男。とてつもなくワルいヤツ。
だが、この映画の魅力の半分は、このサルタンにかかっていると言って良い。
軍人上がりの血が騒ぐのか、この男、戦争の時には自ら軍団の先頭に立つ。兵士たちの輪に加わって、ダンスまで踊ってみせる。
後ろに控えて踏ん反り返っていないから、兵士たちに慕われる。食糧不足で不満ゴーゴーの兵士たちの気持ちを、大演説ひとつで士気高揚に転化させることができる。軍事国家のトップとして、とても正しい。
「欲しいものはどんな手段を使っても手に入れる」スタンスも、皇帝として好印象だ。時には身ひとりで敵陣に乗り込んでみたりする。
敵は残忍非道、でも「これはモテるだろうな」の魅力たっぷりなサルタン。「ライオンキング」におけるスカーみたいな、悪のカリスマだ。問題は、致命的にパドマーワトの「平和を愛する」価値観と合っていない、ということだ。
ひと目逢いたい…でも逢えずに終わる。
パドマーワトは誇り高い女性だ。男に「モノ」として扱われるのを嫌う。
夫である策を弄するのを嫌い、大義を第一とした戦い方をする:パドマーワトとはちょっと違うし、サルタンと好対照。
だからパドマーワトとラタン・シングは結ばれたのだろうし、サルタンが熱をあげればあげるほど、パドマーワトが退いてしまう悲しい構図。
サルタンとパドマーワトの逢引ではない、相引きは
キャッチー・ミー・イフ・ユー・キャンと、ばかり
追うものと追われるものの間の、知恵比べの様相を示してくる。
ほとんどの場合、パドマーワトが出し抜く形となる。
加速度的にスケールは拡大し、最後は、メーワール国侵略に発展する。
もはやこれまでと、パドマーワトが一族郎党に命じたのが「殉死」。
真っ赤なサリーに全身を包んで、国中の女たちとともに、炎の中に身を投げる。
死を恐れぬ、恐ろしく美しい構図。
姫にひと目会いたい…
サルタンの願いは、あと一歩のところで叶わず、幕は降りる。
サルタンの気持ちになるか、パドマーワトの気持ちになるか。
どちらになるかで、だいぶ印象が変わる映画だ。
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