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アクション、アメリカン・ライフ、マイホームパパ、おやじの背中。マックイーンの「ハンター」。

うんざりするほどの曇天が覆いかぶさる時代だからこそ、頭を空っぽにして観れる能天気なアクション映画が、無性に恋しくなる。それも、ただの銃撃戦だけで終始しない、ダイナミックなアクロバットが拝める作品が。

だからマッドマックスがいい。007がいい。ワイスピがいい。トリプルXがいい。

この週末、どうせ観るのなら、1980年公開の本作はいかがだろうか。「大脱走」のスティーブ・マックイーン、最後の捕物帖。97分でさくっと観れる。


※以下、あらすじ紹介の後に、親父の背中もとい本作のレビューとなります。

スティーヴ・マックィーンの遺作でもあり、彼の才能が遺憾なく発揮された「ハンター」。
彼が演じたのは、実在した現代の賞金稼ぎ、ラルフ・“パパ”・ソーソン。この役は、彼の出演作の中でも忘れられない役の1つとなった。
保釈中に失踪した逃亡者を非情なまでに追いかけ、何人も捕まえてきたソーソン。たとえ保安官の甥であろうとも容赦はしない。しかし、いつもは追いかける側の彼を執拗なまでに、つけ狙う復讐心に燃える男がいた。その男の魔の手は、ドティーにまで伸びてきた。その時ソーソンは……。“賞金稼ぎ”という時代錯誤的なヒーローに扮するマックィーンは、トラクターでのカーチェイスや地下鉄高架線にぶら下がるなどのアクションシーンを披露しながらも、家へ帰れば、信頼する仲間たちからは“パパ”と呼ばれ、“古い”おもちゃを収集し、愛する妻のためには、嫌々ながらラマーズ法教室へも通い、出産の時には気を失ってしまう、人間くさい男“ソーソン”をマックィーン自身の人間味あふれる魅力で好演している。
スタッフ
監督:バズ・キューリック
キャスト
ラルフ・ソーソン…スティーブ・マックィーン(内海賢二)
リッチー…イーライ・ウォラック(富田耕生)
ドティー…キャサリン・ハロルド(幸田直子)
トミー…レヴァー・バートン(堀川 亮)
保安官…ベン・ジョンソン(阪 脩)

パラマウントピクチャーズ  公式サイトから引用

取り立てて強調するほどのプロットは存在しない。
マックイーン演じる賞金稼ぎが、アメリカのダウンタウンにたむろするチョッと頭おかしいならず者たちを捕縛していく。
心理戦なんてものはない。マックイーンが躍動する姿だけで押して押す。それでいて、シチュエーションは多々に富んでいるので、全く飽きさせることがない。

もちろん、ラスボスは80年代ハリウッドの定番たる頭のネジが飛んだ凶悪犯:
「How many kill you ~!?」と煽りながら、夜の校舎の中でラルフ(とその妻)を追い回す、偏執なストーカー(演:トレイシー・ウォルター)との闘いだ。

ステキなアメリカン・ライフ。 ステキなマイホーム・パパ。


この映画で1点、特筆すべきなのは、
「ベト戦経た80年代でそれはないだろ!」と思わずツッコミたくなる
マックイーンが古き良きアメリカンライフに耽溺するサマだろう。

昼は、1951年型シボレー・スタイルライン・デラックス・コンバーチブルほか古き良きがっしりしたアメ車を乗り回して仕事。日本車?なにそれ美味しいの?と言わんばかり。(実際、劇中大手を振って登場する車も、古き良き頑丈なアメ車ばかり。日本車は人目に隠れている。)

がっしり造られた我が家に帰れば、広々としたダイニングにジュークボックスが置かれポーカーを嗜む友人がたむろし、飲み物は当然コカ・コーラだ。
彼はこの家の中ではすっかりマイホーム・パパとなって、ただひたすらに妻を愛する。そこに乱暴さやワイルドさの影もない。

80年代にはアナクロすぎて最早お笑いになってたであろう、グッド・オールド・アメリカのイコンが、これでもか、これでもか、と詰め込まれている。
そのライフスタイルを、マックイーンが堪能している。
マックイーンの周囲だけに、同年公開の「ダーティファイター」や「ブルース・ブラザーズ」と違う、50年代アメリカの磁場が出現している。
この磁場、あまりに強烈すぎて、かえって目が離せない。


そして最後は、ほんのちょっとだけ、しんみり。


もう一つ、注目すべきは、本作がマックイーンの遺作だということだ。全米公開を見届けるようにして、1980年11月7日にマックイーンは逝去する。
だから、彼の身体を病魔が蝕んでいるのも、目を背けてはいけないところ。

本作は、彼の他の主演作がそうである様に、マックイーンは吹替なしで、殴られたり吹っ飛ばされたりする。
かなしいのは、「パピヨン」よろしく打ちのめされても「ぱっと」身を起こすのではなく、「よろりと」ゆっくり起き上がるところだ。ここに敏捷さはない。
(あらすじにも書いてある)ダウンタウンの大追跡も、「付け回す」というよりは「ようやっと付いていく」といった格好。そこに、往年のようなパワフルさはない。

それでも、「格好がついている」と言うよりは「格好いい」で語れるのは、アクションとは何かを知りぬいた男:マックイーンの持つ魅力によるもの。

本作は、ラルフについに息子が誕生し、「パパ」になるところで終わる。
「大脱走」「ブリット」「ゲッタウェイ」「パピヨン」と、絶えずアウトロー、一匹オオカミを演じ続けてきた男が、最後は、家族を守る男となって終わる。(そしてこれが遺作となる。) 暗喩的で、そして余韻を残す結末だ。


以上、アクションと親父の背中のアンバランス で語れる映画「ハンター」。
この週末、予定が潰れてすっきりしない方、日中のお供にどうぞ。

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ドント・ウォーリー
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