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花に嵐の映画もあるぞ(邦画編)。

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わたしの好きな映画を、「褒めること」意識してつらつら書いていきます。 取り上げる映画は、時にニッチだったり、一昔前だったりしますが、 そこは「古いやつでござんす」と許して、ご容赦…
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ジープにヘリコプターに野獣がふたり。「新宿アウトロー ぶっ飛ばせ」

渡哲也と原田芳雄という70年代を代表する男の色気たっぷりの大スター2人の共演作。前者はスタジオシステム育ち、後者は劇団俳優座出身。当時の映画界にとっては主役に起用するには正統派と異端の好対照。好きな人にとっては、観ずにはいられないだろう。 じっさい、しょせんダイニチ映画という誹り、しょせん日活末期の映画というには、観る者の期待値以上のエネルギーに満ち満ちている映画である。 渡哲也が冒頭からカッコよく飛ばす。何せ、出所後、泥だらけの道を優雅にタクシーで、新宿を目指す、大盤振る

つかこうへい、志穂美悦子、井筒和幸、みな不完全燃焼。映画「二代目はクリスチャン」。

70年代、すべてはブルース・リーから日本を席巻したカンフー映画ブーム。わが国でも千葉真一や倉田保昭などを主演に和製功夫:カラテ映画が量産された。アクション男優の始まり。 同時期に活躍したアクション女優に志穂美悦子が存在する。 千葉真一率いるジャパンアクションクラブの門を叩いた彼女は、人造人間キカイダーのビジンダー役をはじめ、数多くのアクション映画・テレビ番組で主役を張る。 そんな彼女も80年代に引退したのもあって、主戦場はまだアクション映画が未成熟だった70年代に集中。有り余

親分:ビートたけし。覗き魔:西島秀俊。映画「女が眠るとき」

最新作「首」だけを取り上げるまでもない。ビートたけしほど、自身の「何を考えているのか分からない」「得体のしれない」「怪物的な」「キレたら怖い」「笑いながら恐ろしいことをいう」パブリック・イメージを活用している男優は、ほかに存在しないだろう。 北野武監督作品に限らず、「戦場のメリークリスマス」「GONIN」「御法度」「バトル・ロワイヤル」「血と骨」「劇場版MOZU」に至るまで、その役者イメージはまるで逸れたことはない。 そんな彼を主演に迎えて、ベルリン国際映画祭で特別銀熊賞を

シスコン勝新太郎。ブラコン大谷直子。増村保造の異常性愛映画「やくざ絶唱」。

自分の思うままに生きようとする子供っぽさ。どこまでも危なっかしく、だからこそ周りの元気のいいヤツラを魅了し集めてくる人たらしぶり。河内弁のやくざにせよ仕込み杖の按摩にせよ前線からの脱走兵にせよ妥協のない完璧な演じ方を見せてくれる男。 勝新太郎は、今なお、多くの映画ファンを魅了する。 そんな勝新太郎が大映も末期、1970年に主演した増村保造監督『やくざ絶唱』より。はいはいヤクザ映画ヤクザ賛美と席を立つのは待ってほしい。 時はまさにエログロバイオレンスの映画ばかりが受けた時代。

冒頭に威勢よく渋谷スクランブルに暴走車が突っ込む!それだけ。映画「グラスホッパー」

ハロウィンの夜に渋谷のスクランブル交差点で起こった事故をきっかけに、心に闇を抱えた3人の男の運命が交錯していく様を描いた伊坂幸太郎原作2015年の松竹超大作「グラスホッパー」。鈴木を演じる生田斗真、クジラを演じる浅野忠信、蝉を演じる山田涼介の豪華共演がセールスポイントだったが、その出来栄えはと言えば。 正直、伊坂幸太郎ファンでもない&原作未読の自分にはきつかった、の一言。 冒頭、いつものような、夜の何でもない渋谷のスクランブル交差点の雑踏が映し出される。そこで突然4WDが

健さんを喪った。その掛け替えのなさは重く…降籏康男の最終作「追憶」。

降旗康男監督が亡くなって4年。間もなくはや亡くなって9年が経とうとしている高倉健とともに、その名は、徐々に忘れ去られつつある。 かつては「冬の華」「駅STATION」「夜叉」「鉄道員」「ホタル」「あなたへ」と、「降旗&高倉」は数少ないトラディッショナルな日本映画の系譜であるとともに、希少な稼ぎ頭:ゴールデンコンビと謳われた、そんな時代があった。高倉健のような日本のこころが狂騒とSNSのご時世に埋もれて久しく。健さんという相棒を喪った降籏監督の、結果として遺作となった2014年

天使、安田顕、オカマバー、魅惑で不思議。「小川町セレナーデ」。

性転換&全身整形をさせられたヤクザがアイドルになるべく奮闘する2019年の映画「BACK STREET GIRLS -ゴクドルズ-」でちょっとだけ話題をさらった原桂之介監督の処女作、「シン・仮面ライダー」「ラーゲリより愛を込めて」ほか数々の話題作に助演、主演作なら「俳優 亀岡拓次」「家に帰ると妻が必ず死んだふりをしています。」ほか確かな演技を見せる、通なら知ってる?男優:安田顕の実質主演作「小川町セレナーデ」より。 「小さなスナック」と聞いて何をイメージするだろうか。頭の痛

田宮二郎、黙っていても、もの扱いでも、いい男。増村保造監督「爛」。

"「ただ自分の現実を描く」ことしかなく、「作者が持ち得るべき思想」が一切なかった""次第に文学者仲間以外の興味も同感もひかぬ特殊な内容を持つようになった""作家が社会の塵埃を知らない、本質的にはのほほんとしたエリートであるが故の、自我の孤独と優越の文学"etc. 今となっては功罪半ばして評価される、日本の自然主義文学。 本家のモーパッサンやゾラと異なり、映像化の恩恵をまるで受けていないのも、この世代の作家に共通した特徴。田山花袋、国木田独歩、正宗白鳥、近松秋江、岩野泡鳴、真山

名前負け!ガメラの監督による"大映最後の青春映画"「成熟」

独り歩きする伝説、というのも存在する。崩壊寸前の映画会社が最後に送り出した、それも伝説的なシリーズの監督が携わった映画であれば、なおさら。 1970年、関根恵子(現:高橋惠子)氏は「高校生ブルース」にて、妊娠する女子高校生という当時としては衝撃的な役で、大映映画からスクリーンデビューを果たす。 以後『おさな妻』『成熟』と、悪者だらけの家族に囲まれ、自然早熟するほかなかったティーンエイジ役にてキャリアを積んできた彼女。1971年主演第7作、大映青春映画路線最終作にして、大映最

橋口亮輔監督、新作を待ってます。映画「恋人たち」。

じっさいゲイの作家である橋口亮輔が2015年に監督した映画「恋人たち」。自分に興味を持たない夫や反りが合わない姑と生活するパート主婦、ゲイの男性弁護士、妻を通り魔に殺害された男、オーディションで選ばれたこの3人の苦しみを描いたドラマ。 素材はある意味、2023年に上映された是枝裕和×坂元裕二の話題作「怪物」に似通っているが、当事者である分、ゲイとしての苦しみの描き方は、本作の方が、より真に迫っている様に思える。 高架道路の真下を流れる運河、殺風景な部屋、我関せずと決め込むお

世界はディーン・フジオカのため、だけにある。映画「結婚」。

2015年の連続テレビ小説「あさが来た」の五代友厚役で大ブレイクしたディーン・フジオカ。その色男ぶりにますますの磨きがかかって、2017年に主演した映画「結婚」より。 テーマは一応「結婚は女を幸せにするのか?」らしいが、騙された方の言い分をなぞっているだけなので、脇においておこう。本作は、「ディーン・フジオカ」というスターに酔いしれるために作られた映画である。だから、監督も彼に惚れ込んだ人間がつとめているのだ。 フジオカがわれわれに向かってくる。ある時は狭い路地を抜けて、

腐れ縁の果て、剃刀、桜、鏡。岡田茉莉子主演「秋津温泉」

「映画に愛された小説家」藤原審爾原作、藤原自身にも重なる境遇の、両親のない17歳の少年が伯母に連れられて山奥の秋津の温泉宿を訪れ3年後、その5年後、また8年後と繰り返し秋津を訪れながらそこで出会った女性と妻子を持つ身となっていく主人公の関わりを叙情的に描いた小説「秋津温泉」の映画化(監督:吉田喜重)より。当時の松竹の看板女優:岡田茉莉子が、自身の出演作品100作記念として企画・衣装を手掛けた作品でもある。 本作、吉田喜重が依頼を岡田茉莉子から受け、脚本を自ら書くことと原作に

寺山修司×菅原文太×清水健太郎「ボクサー」。

寺山修司が自分自身の世界観を東映カラーに染め上げた「唯一の商業映画」菅原文太・清水健太郎主演、1977年10月公開映画「ボクサー」より。 この1年後、谷村新司率・矢沢透らフォーク・グループのアリスは、ミドル級チャンピオン:カシアス内藤をモデルに「チャンピオン」をリリース、大ヒットを記録している。「ボクサー」が作られた時代は、本曲と同じように、勝者よりも敗者を謳うことが遥かに意味を持っていた時代を象徴している。 それは冒頭のクレジットロール中、後楽園ホールのリングに続く廊下を延

まっすぐに空を仰ごう。日活映画「上を向いて歩こう」

日本人として唯一、「キャッシュボックス」と「ビルボード」で第一位となり、全米レコード協会からゴールド・ディスクを贈られた、坂本九(一九四一~一九八五年)の大ヒット曲「上を向いて歩こう」は、様々な歌手にその後も歌い継がれている: これを映画化した1962年の日活映画「上を向いて歩こう」より。 併映は裕次郎の「銀座の恋の物語」…って豪華な二本立てだな! 夜に紛れて刑務所を脱走する若者ふたりの姿から映画は始まる。河西九(演:坂本九)は運送店に住み込み、社長の娘:紀子(演:吉永小